リレーコラムについて

ありがとう、少年野球。④

鈴木良平

今日からサインやめます!

 

ある日、4年生のお父さんコーチ佐賀さんが言った。
「鈴木さん、サイン、もうやめない?
あんまり、意味ないでしょ。」

当初、鈴木監督が決めたサインは4種類。
「打て」「待て」「走れ」「バント」。

佐賀さんが言うには
・サインを出しても、子どもが見落とすケースが多い。
・ヒットエンドラン、バントエンドランが消化できていないので
サインプレーが上手くいったためしがない。
・いい球が来たら夢中で打て、塁に出て「行ける」と思ったらかまわず走れ
で、いいんじゃないか。
・一球一球、サインのやり取りをやってると、試合がだれる。

僕としては、カッコよく、サインを使った機動力野球に憧れていたので
少なからず残念だったけど
佐賀さんは、甲子園をめざして、他県から東京に野球留学してたくらいの
経験者なので、受け入れることにした。少なからず残念だったけど。

「え~、今日の試合から
ウチのチームは、サインやめます。
いちいち監督の方を見なくていい。
その代わり、いい球が来たら、自信をもって振れ。
塁に出て、行けると思ったら、思い切って走れ。」
と宣言してみた。

1回の攻撃。あんまり何も起こらなかったので
2回の攻撃の前に、子どもたちを集めて、さらに言ってみた。

「いいか、サインはないんだぞ。
いい球!と思ったら、思い切り打っていい。
塁に出て、チャンス!と思ったら、思い切って走っていい。
思い切りやって三振しても、タッチアウトになっても
オレはゼッタイ怒らないから。」
と念押ししてみた。

だいたい、こういう話をしてノッてくるのは
5年生の松井くんや星くんあたりだ。
案の定「ゼッタイ、怒らない?」とニヤニヤしている。

「あー、怒らない。ゼーッタイ怒らない。けど」
「けど?」
「振らないで三振になるヤツ、走らないでアウトになるヤツは
怒るかもしれない。」と言ってみた。

そうしたら、2回の攻撃からちょっと雰囲気が変わってきた。
バッターボックスから、こっちの顔色を伺いつつも
ちょっとだけ、試合への集中力があがった感じ。
企画書的に言うと、ジブンゴト感がちょっとアップした。

もちろんこれで猛打爆発、なんてことにはならない。
さすがに、そこまで単純ではない。
だけど、しばらく様子をみているうちに
サインを復活することは、なかった。
監督もラクだし、子どもたちも楽しそうだったので。

とはいえ、この時期になっても、僕らのチームは、まだ1勝もできてない。
勝負の道はキビシイのだ。

今回の結論;ベテランには巻かれよう。子どもには任せよう。

 

ミラクル、起こる!

 

このコラム、そこそこ練習熱心で
そこそこ強いチームには、まったく参考にならないと思う。

そのあたり、説明してませんでしたが
ウチのチームは、ちょっと変わったチームだったのだ。

所属している○○区少年軟式野球連盟14チームのなかで
おそらく下から5本の指に入る感じ。

そもそも、いちばん強いゴールデンキングスときたら
5・6年生で2チーム作れる人数がいて、土日も練習、平日も練習。

いっぽう、ウチのチームは、日曜の午前か午後、練習は半日だけ。
「練習だらけにすると、親子でキャッチボールをする時間がなくなる」
というチーム代表の信念があったからだ。

だからといって、親子の自主練が熱心に行われないのは世の常で
ほとんどの家庭が、空いてる土曜日と日曜日の半分を
塾やスイミング、他の習い事に充てていた。

そんなわけなので、土曜日に試合が入ると
ひどい選手不足に見舞われることがある。

忘れもしない、あの三区合同親善野球大会がそうだった。

ありがたいことに、持ち回りだったのか出場権が得られ
意気揚々とエントリーしてみたら、4年生まで狩り出してもやっと10人。

行楽シーズンの3連休だったし
ほかの家庭は、親子のキャッチボールを優先したんだろう。

でも、なぜか集まった子どもたちの士気は高かった。
電車に乗って知らないグラウンドに試合に行く、というのを聞いただけで
勝ち抜いて大きな大会に出るのと勘違いしていたのかもしれない。

さらに、それだけではないのだ!

僕らのベンチには、シロート監督がもっさり突っ立ってる後ろに
山下くんのお父さん=元プロ野球選手がいたのだ。

しかも、それだけでもないのだ!

5年生葛西くんのお父さん=野球ファンなら誰でも知っている現役のプロ野球選手まで!?
ふたりもカッコいいコーチがいたんだから。

ふたりのカッコいいコーチは、ホントに偉い人で
後ろからシロート監督の僕にささやいてくれる。

「鈴木監督、レフトちょっとさげましょう」
僕「おーい、宗太郎、ちょっと後ろさがっとけ」
「鈴木監督、ここは前進守備にしましょう」
僕「おーい、内野、ここは前進守備でいこう!」
みたいな感じ。

おかげで、新宿区のチームを相手に7-6で勝ってしまった。
みんなもよく打って、よく守った。

で、翌日が2回戦。引き続き選手10人に
シロート監督と、カッコいいコーチふたり。

勢いがついたのか、千代田区のチーム相手に8-4で勝ってしまった。
ちなみに8点のうち4点はランニングホームラン。機動力野球。

で、いよいよ準決勝は、我が区のいつものグラウンド。
宿敵、というもおこがましい。ここ数年、一度も勝ったことのない相手
サンシャインズと対戦。

この日は、準決勝と知ってか知らずか、15人くらい集まったけど
まったく振るわず、結果3位に終わりました。

なんだろう。ウチのような野球熱が気まぐれなチームの場合
ベンチに6人も残っていると、しりとりやら口喧嘩やら、すぐ始まる。
でも、この1・2回戦は、10人しかいないから、みんな試合で忙しかった。
ミラクルが起こった理由は、これに尽きる
とシロート監督は分析したのでした。

今回の結論;窮鼠、猫を噛む、はホント。

 

長い作文になりましたが、振り返ってみると
子どもたちに、野球も何も、ろくに教えてあげられなかったうえに
こっちがたくさん教えてもらった、申し訳なさすぎる1年間でした。

全体の結論:子どもって、すごい。

 

さて、来週のリレーコラムは
グラウンドに行かなくても「子どもって、すごい」を実感できる。
「TCCこども広告教室」でお会いした山口慶子さんにバトンをお願いしました。
どうぞお楽しみに。

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