おおきな隆夫
『おおきな木』という、シェル・シルヴァスタインによる絵本があります。
シンプルなようでいて示唆に富んだその深い内容から、
世界中で長く読み継がれている名作です。
近年、村上春樹さんが新訳されたことでも話題になりました。
『おおきな隆夫』は、日本人ならひょっとしたら『おおきな木』以上に
多くの人が触れてきているかもしれないのに、
あまり語られずにきたお話です。
笑点というテレビ番組をご存知でしょう。
この国に育って一度も観たことがないという人はおそらくいない、それぐらいの番組です
(そういえば、2006年のコピー年鑑は笑点モチーフでした)。
そのオープニングも、きっと多くの方が
いますぐ頭に思い浮かべることができると思います。
中村八大作曲というあのおなじみのテーマ曲にのせて、
レギュラー陣たちの似顔絵を用いたアニメが展開される、あれです。
そのアニメの合間合間に、ひとりずつ
似顔がクローズアップされ、名前が紹介されていきます。
小さく「三遊亭」、大きく「小遊三」。
小さく「林家」、大きく「木久扇」。
小さく「春風亭」、大きく「昇太」…。
そう、落語家にとって亭号はもちろん大事なものですが、
この場で重要なのは、あくまで下の名前。
もし司会者が「はい、三遊亭さん!」と指名したら、
圓楽と小遊三と好楽のお見合いになってしまいます。
というかそんな笑点上の都合なわけでもなく、
そもそも志ん生とか圓生とか、落語家を下の名で呼ぶのは当然です。
寄席のめくりもそうなっています。
さて、笑点のオープニングはつづいています。
TVの前の私たちは、次に、もうひとり出演者を紹介されます。
小さく「山田」、大きく「隆夫」。
でかでかと我々の眼前に示される、「隆夫」の二文字。
そうか隆夫か。これから隆夫の座布団さばきを見るのだな。
隆夫の甲高い「はい、かしこまりました」は日曜夕方の風物詩だなあ…。
いやいや、隆夫じゃない。
むしろ山田である。
山田くん山田くんと、番組内ではあんなにも苗字推しでやっているじゃないか。
なによ急に素敵な寄席文字で「隆夫」って。
この妙な気持ちを味わいたいがばかりに、ぼくはついつい
笑点をオープニングをたまに観てしまうのです。
今でも驚くほどの高視聴率を誇る番組です。
このオープニングを累計何人が見てきたのかわかりませんが、
おおきな隆夫が気になっている人はどれぐらいいるのでしょう。
ぼくはこの『おおきな隆夫』のお話から、
・ひとは惰性でものを見てしまうもの。
たい平、三平、と続けば、はいはい隆夫ね。と何となくやり過ごしてしまう。
・世の中は、意味と形式では、形式が優先されがちである。
意味から考えれば隆夫を大きくするのは変だが、
それよりも形式を揃えることを優先しがちだし、周りもそれを受け入れがち。
といった教訓を読み取ります。
みなさんはどうですか。
・ ・ ・ ・ ・
と書いた直後に、久しぶりに笑点を確認したところ、なんと、
山田隆夫の4文字はいつのまにか同じ級数に変わっていました。。
たしかに、ちょっと前までは大きな隆夫がいたのですが。
やはりスタッフ間で大きな隆夫について議論があったのかもしれません。
それにしても長々と書いたこの文章、なんだったんでしょうか。笑