嘘
少し前の仕事で、
商品特徴を丁寧に説明するCM動画をつくって欲しい、
というご依頼がありました。
「おもしろ系というよりは、ちゃんと伝わることを優先で」と。
そういう広告もありますよね。
なので、
この商品のCMを担当していたタレントさんに
基本的な商品特徴を学んでいただくレクチャー動画をつくろう。
という話になりました。
こういう広告もよくありますよね。
使用して驚いてみたりして。
まあ今回はそういうことだよね、という感じの流れの雰囲気でした。
ところが、その時、チームメンバーのひとりが、
「この商品を前からCMしてるタレントさんなのに、商品特徴を知らないのは不自然では」
と言い出したのです。
「まあまあ、リアルで厳密に捉えるとそうかもしれないけど、今回は説明動画だし、そこまで深く考えなくても…」
とたしなめられそうなところです。
進行をすすめるCDの立場だった僕としてもそう思いました。
しかし個人としての自分は「確かにちょっと不自然だ。。」と思いました。
そして痛快感とワクワク感を感じました。
王様は裸ですって言われたような、
前提をぶっ壊すこのブラックジョークみたいな会話を
もっとしたいと思ってニヤニヤしてしまいました。
打ち合わせをつづけていると、
なんとかこの矛盾を解消しようと悩んだメンバーのメモの中から
「記憶喪失」という四文字だけが書かれた一枚が出てきました。
それを見て、くらっとしました。
「そうか、記憶喪失なら、今さら商品の説明をされてても不自然じゃない…!」
すぐに深掘りしてストーリーを考え、
結果として、
「CMタレントさんが頭を強く打ち、
これまでの記憶を喪失してしまったので、
商品の担当者が改めて商品性を一からご説明しにいく」
というCM動画ができあがりました。
担当者が大真面目に商品説明をすればするほどばかばかしく、
当初想定していたよりおもしろいものになりました。
効果もあったそうです。
この時、改めて、
襟を正すような気持ちになりました。
大事なポイントは、メンバーが
「嘘」に対して敏感だったことかと思います。
タレントさんが知らない不自然、という、
小さな嘘にちゃんと気づいて、
周囲の空気を読まず突っ込んだ時点で
企画のジャンプ台が出来上がったように思います。
広告の仕事はつい小さな嘘が発生しがちな構造で、
それが許容されがちな構造です。
嘘の落とし穴みたいなものが無数にあります。
でも、
嘘ついて流してもいいところで、
その違和感にちゃんと引っかかって、
歯を食いしばって嘘をつかない道を選んだら、
ふつうと違うユニークな場所に辿りつくのではないか。
むしろ嘘こそが、チャンスなのではないか。
いい仕事と言われる広告の仕事は
チャンス仕事っぽい顔つきをしてやってくるのではなく、
嘘をつかずに頑張った人がいて
結果としていい仕事に育っているのではないか。
できるだけ嘘をつかない、という
シンプルなひとつの基準を実践するだけでも
企画やコピーはよくなるものが多いのではないでしょうか。
できるだけ嘘をつかないこと。
大げさに商品を褒めすぎないこと。
人が共感できないことを言わないこと。
自分が本当に思ってないことは言わないこと。
ふだん自分が言わない言葉づかいをしないこと。
登場人物に人間心理としておかしい行動をさせないこと。
「そんなやつおれへんやろ」という登場人物をつくり出さないこと。
登場人物に都合良すぎる表情をさせないこと。
商品に都合の良すぎるシチュエーションをつくらないこと。
どうしても大げさに褒めないといけない時は、大げさすぎたりして、嘘に自覚的だと伝わる設定にすること。
商品にとって都合の悪い不都合な真実を隠さないこと。
タレントさんが本当に思ってなさそうなことを言わせないこと。
IPキャラクターが言わなそうなことを言わせないこと。
「売上を上げる」という広告の目的を、自分の企画都合で無視しないこと。
商品や企業が持つシズル感を、自分の企画都合で無視しないこと。
ポジショントークみたいな企画をしないこと。
広告であんまり言われないけど現実には存在している本音を無視しないこと。
広告界と関係ない地元の友達とかに見せたとして恥ずかしくない内容にすること。
周りの人が無意識についてる嘘に敏感であること。
嘘をつかなかった人の小さな意見をひねり潰さないこと。
間違ってると思ったら、勇気を持って「違うかもです…」と言うこと。
あんまり言えなそうな相手なら、勇気を持って「違うかもです…」という顔をすること。
などなどなど・・
私自身、まだまだ全然できてないのですが…
自戒の念を込めて…
引き続きがんばります。
もし私が嘘をついた仕事をしていたら、
お前、やっちゃってるぞと、
くれぐれも厳しく叱責したりなどはせず
それとなく優しく匂わせレベルでお伝え頂けると幸いです…
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