リレーコラムについて

なぜ人はカンヌではしゃいでしまうのか。

こやま淳子

そんなわけで22年ぶりにカンヌライオンズへ行ってきました。

まあ、裏を返すと、
カンヌに22年も行っていなかったわけなので、
「カンヌに行かない人の気持ち」もよくわかります。

SNSが普及してからは、
カンヌに行ってはしゃいでいる人たちの投稿などが目に入り、
「はいはい、いいですね、こっちは仕事してるんですけど」
みたいな気持ちになってしまう。

それが自分の仕事仲間だったりすると、
案件がちょっとストップしてしまったりもするし、
「うん、大事だよね、カンヌも。まあこっちは仕事してるんですけど」
という気持ちになってしまう。

しかも昔はフィルム(CM)とプリント(グラフィック)しかなかった部門が、
いまはやたら増えてしまったし、
それは運営側のお金儲けだとか聞くと「なんだかなあ」という気持ちにもなり、
またすべてを追い切れないくらい受賞作が増えてしまったこともあり、
いつしかあまり興味のないもの、というか、
正直ちょっとナナメにカンヌを見ていました。

しかし今回、
カンヌの会場の前にたどり着いたとき、
ずらっと並ぶたくさんのショートリスト作品を見たとき、
授賞式を見たとき、イーロンマスクのセミナーを見たとき、
そして現地でたくさんの日本人の知り合いに会ったとき私は、

「あ、やばい。はしゃいでしまう」

と思いました。
想像以上にテンションが爆上がりしてしまう自分を、
止めることができなかったのです。

そこには、南フランスの眩しすぎる太陽やロゼワイン、
慣れない英語を使ったりする「非日常感」による
高揚もあったかもしれません。

でも一言で表現すると、

「広告って楽しい!!」

とストレートに思ってもいいような、
あの場にしかない雰囲気が大きかったように思います。

日本でカンヌ受賞作を見るときは
「へーこれがグランプリ?」「へーそういう意味なんだ」
と冷静に受け止めることが多く、
それは「学習」という感じなのですが、

現地で順次発表される受賞作を見ることは、
ワクワクする空気や他の国の方々の反応、
そして自分自身の集中力の違いなどもあって、
途方もなく大きなライブ感と共にある。
つまり「体験」として、深く心に刻まれるのです。

毎日授賞式が終わると、
レッドカーペットのところに受賞したチームがわあーっと集まって
祝勝の歓声とエールを送り合っている。
そういうのを見て「チキショー」「いいなー」って思える自分も清々しい。

また印象的だったのは、素晴らしいクリエイターの方々ほど、
ちゃんとカンヌを見ていたことです。

現地でさまざまな方にお会いしたのですが、
博報堂の嶋さんや電通の澤本さんは、
狂ったようにショートリストを見ていました。

ああ。こんなすごい方々が時間を惜しむように没頭しているのに、
何を私はナナメに見ていたんだろう。

「カンヌで遊んでいる人/日本で仕事している人」
みたいに区別していたけれど、
「あの頃カンヌに夢中になっていた自分は何だったのか?」
なんて思っていたけれど(前日のコラム参照)、
カンヌは別にいまの自分や仕事と別のものではない。続いているものだったのです。

最後の授賞式の日、Lion of St. Mark(殿堂入り)を受賞したジャック・セガラ氏は、
ユーモア混じりのスピーチで大爆笑を誘いながら、大声で叫びました。

“love ideas, love creativity, love life”.
(アイデアを愛そう、クリエイティビティを愛そう、人生を愛そう)

そしてこれが、びっくりするくらいスタンディングオベーションの連続。
ナナメな人なんか、その場には一人もいなかったのでした。

日本に帰ってきて10日ほど経ちましたが、
まだちょっとあの高揚感が抜けないまま、日々の仕事に追われています。

今回、行く前は「人生最後のカンヌ」くらいに思っていたのですが、
いまは「来年も行くぞ」という気持ちでいっぱいです。笑

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