ほんとうにあった怖い話/デパート
その日、私はデパートの化粧品売り場にいた。
20代も後半になり、そろそろドラッグストアのコスメを卒業しようと考えていた矢先、
某ブランドの1万円以上するファンデーションがとてもいいと聞きつけ、
価格的にいきなり買うのは憚られたので、まず一度試してみることにしたのだ。
「ご来店ありがとうございます、本日はどういったご用件でしょうか」
そのブランドのコスメカウンターを訪ねるのは初めてだったが、
BA(美容部員)さんは全員とても感じがよく、
肌は極上大トロのごとくツヤめいていて期待が持てた。
「ファンデーションの買い替えを考えてまして、タッチアップお願いできますか」
「かしこまりました。なにか肌悩みがあって買い替えをご検討という感じでしょうか?」
「いえ、特にいま肌悩みがある訳ではないんですが、とてもいいと聞いたので」
「ありがとうございます。当店では、お客様全員に
最初に肌診断を受けていただいておりますので、そちらからやっていきますね」
なんと、ファンデーションを買いに来ただけなのに、
肌診断からしてくれるという。さすがは一流店だ。
「では、お肌の水分量と油分量を診ていきます」
「お願いします」
頰にスティック状の検査機器を当てられ、
目の前のモニターには拡大された肌の映像が映し出されている。
「えーっと、お客様のお肌の水分量は27ですね」
「あれ、低いですね、あはは」
「油分量は4です」
「4」
いま、この方は4と言ったのだろうか。
驚くべき数値に耳を疑うも、“お客様カード”なるものには美しい文字で4/100と書かれており、
聞き間違いでないばかりか診断が100点満点であることも突きつけられた。
「診断結果としては、最も乾いているゾーン4になります」
終わった。末期かのような宣告だ。
特に悩みはないと答えた診断前の自分の言葉が完全にフリになってしまっている。
ゾーン4で悩んでいない人間はポジティブを通り越して異常者である。
その後、お目当てのファンデーションのタッチアップもしてくれたが、
末期肌宣告の衝撃がひどく、適当に返事をしているうちに購入することになっていた。
虚ろな目をしている私にBAさんが声をかける。
「お客様、よろしければゾーン4の方専用のスキンケアラインもございますよ」
私はそこで、はたと気がついた。
これはビジネスだ。
この診断結果は全員著しく低く表示され、スキンケア用品の購入を勧める、
そういうカラクリに違いない。
すべてを察した私は途端に目の輝きを取り戻し、
強気にファンデーションだけを購入して帰路についた。
後日、慕っている先輩にこの話をしたところ、
先輩の妹さんがちょうど同じ肌診断を受けたという。
結果は53/100だったそうだ。
肌の状態ばかりか、BAさんの親切心をセールストークと決めつける
己の性格の悪さまで判明した肌診断となった。
==
2日目はデパートでの怖い話をお届けしました。
この時に購入したファンデーションは本当にとても良く、
現在も愛用しています。BAさん、ありがとうございました。
5069 | 2021.01.29 | ほんとうにあった怖い話/ドラッグストア |
5068 | 2021.01.28 | ほんとうにあった怖い話/眉毛サロン |
5067 | 2021.01.27 | ほんとうにあった怖い話/神社 |
5066 | 2021.01.26 | ほんとうにあった怖い話/デパート |
5065 | 2021.01.25 | ほんとうにあった怖い話/電車 |