ほんとうにあった怖い話/ドラッグストア
その日、私は都内の某ドラッグストアにいた。
持病のある私は月に1、2回、病院で検査と診察を受けた後、
院外の薬局等で治療薬をもらうというルーティーンをこなしている。
大体の場合は病院のすぐ近くにある薬局にお世話になるのだが、
その時は後に控えていた仕事の場所と時間の関係で、
普段は行かない駅の近くの
処方箋を受け付けているドラッグストアへと足を運んでいたのだった。
お薬手帳と処方箋を渡し、薬の調剤を待つ。
爪の表面の縦線を観察するなど世界一暇な時間を過ごしていたその時、
ふと、自宅のコットンパフを切らしていることを思い出した。
化粧水を染み込ませたり、ネイルを落とす時に使ったりするアレだ。
どうせなら薬を待っているこの隙にサッと買ってしまおう。
売り場を探して店内を軽く見渡すと、
入口近くに「本日の特売品」を集めたコーナーがあり、
ラッキーなことに、その中にコットンパフがあった。
初めて見るパッケージのものだったが、
オーガニックコットン100%的な文言が書かれており悪くない。
時間を有効に使うことができたという実感もあり、上機嫌でレジに向かった。
夜。
お風呂あがりに化粧水をつけるべく、
先ほど購入したコットンパフの袋を早速開ける。
尿漏れパッドだった。
私がコットンパフだと思い込んで購入したのは、
尿漏れパッドだったのだ。
しかも結構大きめのオムツタイプみたいなやつだった。
そんなことがあるだろうか。
いくら初めて行った店舗だったとはいえ。
いくら検査のために早起きして疲れていたとはいえ。
自分で自分が信じられなかった。
洗面所で一人、尿漏れパッドを手に、
私はとてつもない悲しみに打ちひしがれた。
自分のそそっかしさに呆れただけでなく、
このことを一緒に笑ってくれる人が傍にいないことが悲しかったのだ。
これが実家だったら、うちの両親や弟は大笑いしてくれただろう。
写真も撮ってくれたかもしれない。でも、今は一人だ。
念のため申し上げておくが、尿漏れパッドには何の罪もない。
それらしきイラストを前面に押し出さないパッケージデザインからは
ユーザーへのあたたかな心遣いが感じられるし、
ちゃんと見ると「消臭!」などの
コットンパフとしてはありえないコピーも散りばめられている。
だから、これはすべて私のせいなのだ。
家族がほしい。
それは、初めてはっきりと結婚願望が芽生えた瞬間だった。
恋愛は決して得意な方ではないけれど、もう少し広く目を向けてみよう。
今の私をいいと言ってくれる人を見つける努力をして、その人を好きになる努力をしよう。
尿漏れパッドは、今後の人生を左右する大切な気づきを与えてくれた。
ありがとう、尿漏れパッド。
有言実行でその年、私は29歳にして人生初の合コンに挑んだが、
個別に連絡をくれた参加者は保険会社に勤める男性だけであり、
内容はもちろん、生命保険の勧誘であった。
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1週間読んでくださったみなさま(いるのかな)、本当にありがとうございました。
コピーについてはまだまだ勉強中で何も語れることがありませんが、
こういった事件でしたらエッセイ本でも出せそうなほどネタがありますので、
また機会があれば執筆させていただければと思います。
さて、次週はTCC同期の三浦麻衣さんがコラムを書いてくださいます。
今週とはうってかわって、美しい文章に心が洗われる1週間になることでしょう。
どうぞよろしくお願いいたします。
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