やばい講座
去年の夏、作家の田口ランディさんの文章講座を受けた。僕は、ランディさんのデビュー作「コンセント」を読み、その強烈な世界にガツンとやられたひとりだ。そのランディさんが、ライティング講座を定期的にやっていることをネットで知った。コロナの影響もあり、オンラインで受講できるという。「これは受けなければ」と胸騒ぎがして、すぐに申し込んだ。講座の内容は口外しない約束になっているので、ここでは僕の中で起こった変化をお話ししたい。
まず、なぜ受講しようと思ったかといえば、引き出しをもっと増やしたかったから。広告とは違った視点でものづくりをしている人の創作のヒントが得られれば、もっと幅が広がるかもしれない。講師は自分が影響を受けた作家だ。こんなチャンスはめったにない。僕の中で新しい扉が開くに違いないと思った。
そんな動機で講座を受けた。結果、異次元の扉が開いた。頭の中に隠れているだろう小さな扉を探そうと思っていたら、からだ全体がパカっと開いた感じ。講座がはじまってすぐ、僕はコピーライターという鎧を着て文章の創作に取り組んだ。どうですか先生?コピーライターもなかなかやるでしょう?そんな思い上がりもあったのかもしれない。ランディさんは僕の気持ちを見抜いたのか「あなたが書きたいのはこういうことではないですか?」とやさしく導いてくれた。講座がすすむにつれ、僕は少しずつコピーライターの鎧が剥ぎ取られ、社会人の服を脱がされ、ついにパンツ一丁になった。パンツ一丁になったら、もうコピーライターの僕はいない。裸になった自分という人間と向き合うしかない。パカっ。現れてきたのは、まだ誰にも話したことのない、心の金庫にしまっておいた遠い記憶だった。パンドラの箱、開いちゃったんだよね。やばいでしょ。
講座は2日間。講座が終わってパンドラの箱が開いたままの、やばいでしょな状態の僕は、やばい勢いで短編小説を書きはじめた。からだ中からあふれてくる言葉をかき集めて、並び替えて、足したり引いたり、盛ったり、遠くから眺めたり、また並び替えたり。出来上がってみると、それは6,000字くらいの私小説のようなものだった。あ〜すっきり。内容はとても人にお見せできるようなものではないけれど、僕としては満ち足りていた。デトックスというと言葉が軽いけれど、自分の中で長年抱えていた荷物が少し軽くなった気がした。僕はこんなことを考えていたのか。こんなことで悩んでいたのか。それらを発見し、表に追い出し、文章にすることで客観視する。生まれて初めての素敵な体験だった。
「コピーは僕だ」というTCC年鑑に寄せられたコピーがある。広告主のオーダーに応えるために僕たちはコピーを書いたり企画をしたりする。それはとてもパブリックなマーケティング活動でプライベートが介入する隙はないけれど、どこかに「僕」が入っている広告は魅力的だし、人を惹きつける力がある。でも、その「僕」は、ホントに「僕」ですか?もっとあなたの知らない「僕」がいるんじゃないですか?パンドラの箱を開けてみたい方は、ぜひランディさんの講座を受けてみてください。本物の「僕」にきっと出会えると思います。信じるか信じないかは、あなた次第です(おい)。
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