リレーコラムについて

コピーライターが今後直面するであろう課題

望月和人

現在「デジタル破壊」によって
世界中で様々な仕事が消滅しつつあります。

そして、
広告業界では昨今
「AIがコピーを書くようになる」
と言われる事もあります。

しかし、個人的に
AIは、広告コピーにおいては、
そこまで大きな脅威にならないと思っています。

以前、私がコピーライターをやっていた時なんかも、
「自分の全業務の80%」以上は、
「創造的では無いコピー」の仕事でした。

当時からよく
「こんなコピー機械が書いてくれよ」とか
「むしろこういったコピーは機械の方がうまいコピーを書くよ」とか
思っていましたが、本当にそういったコピーは
機械が書く様になるのだと思うのです。

コピーにおけるデジタル破壊は、
その程度だと思いますし、
むしろありがたいです。

破滅論者の人たちの中には
「面白いコピーもAIが書く様になる」
と言う人もいますし、2045年を境に、
これまで以上にクレイジーな技術革新が起きる可能性があるそうでして、
「面白いコピーもAIが書く」ということが、
「マジでありえる」という人もいますが、
私はあと300年は無理だと思っています。

日本広告協会会長で元青山学院大学の小林保彦教授が
友人の物理学者から、こう質問されたそうです。

「スーパーコンピューターを10台ぐらい使ったら
消費者心理が正確にとらえられないか?」

小林教授は
次の様に答えられたそうです。

「変数が変数を呼んで、次の違う変数を作っていくだけだ。」

「それよりは高給を払って「カンのいい人を雇った」方が絶対に得だ」
とおっしゃったそうです。

AIは、まぁまぁの広告を作るとは思いますが、
「消費者心理」を捉えて
「複雑な社会情勢」との距離感を取りながらも
「破壊的な広告」を作るとは思えません。
それこそ変数が超絶多すぎるカオス状態なのでムリな気がします。

話はかなり飛躍しますが、
私は時々、
クリエイターと犯罪者の
「思考プロセス」が似ている
と思うことがあります。

目的を達成するために、
過去の前例にとらわれずに
手段を選ばないで
確実に目的を成し遂げる、
そのために
あの手この手を使って
必ず結果を出す。

仮に「斬新で破壊的なことを考えるという思考プロセス」
が存在して、それをAIに組み込もうとすると、
おそらくそのAIは、
「人間を殺す」という判断まで
しやすくなる気がします。
「エレベーターを落としたりする」などの方法で。

「破壊的で斬新な発想」と
「人を殺す様なことをする可能性」というのは
実は深いところでつながっている様な気がするのです。

おそらく今後、AIに対しては、
アイザックアシモフ氏の「ロボット三原則」の様に、
「犯罪的な思考」を「規制する動き」が必ず出て、
ゆえに私は、AIに超斬新なことは考えられない気がするのです。

ご存知の方も多いと思いますが
「トロッコ問題」と言って、
例えば車を運転していて
前方からトラックが突っこんで来た時、
右にハンドルを切ったら「子供」が「1人」いて、
左にハンドルを切ったら「ご老人」が「3人」いるといった場合、
どちらにハンドルを切るべきか?
という命題があります。

当然、完全な正解など無いのですが、
その時、自動運転のAIは、どう判断するのか、
という問題があります。

これに関して、
MITメディアラボが運営するサイトで
「MORAL MACHINE」というものがあります。

AIによる自動運転の「道徳的ジレンマ」
における意思決定に関して、
機械の判断なんかではなく
「人間の視点」を収集するためのサイトです。

いろんなシチュエーションの交通状況で
危険な状態になった時、人々がどう判断するかという
意見を集約するサイトです。

おそらく、
どんなにAIが発達しても、この「MORAL MACHINE」の様に
その中心に来る倫理観は人間が司る気がしますし、
もしそれが出来なかったとしたら、
既に「一部のAI」が「人間は不要だ」と結論づけている様に、
世界中に核ミサイルが発射されるのだと思います。

ものすごい話が飛躍しましたが、
AIが破壊的に面白いコピーを書く時は、
人類が滅ぶ時だと思いますし、
それはたぶん無いなと思うのです。

で、前置きがだいぶ長かったですが、
それではAIが進化することで
コピーライターの前に立ちはだかる壁は
何なのかと言いますと、
私が予想するのは、もっと全然シンプルに、
AIがビッグデータを元に絞り込んだサマリーを理解をした上で、
コピーを書く必要が生まれるという点です。

結論から言いますと、
今後「100点のコピーを書くコピーライター」よりも
「70点のコピー」しか書けないけど
「デジタル解析を理解したコピーライター」に
仕事が集まる可能性がある気がするのです。

現在、デジタル破壊によって起きている広告の進化というのは、
これまでの広告の進化の延長線上ではなく、
まったく別の進化をしていく様に思えるのです。

ですから、
今までのやり方を全く変えずに、
そのまま手法だけが進化していくとはならないと思うのです。

そんな中、
私はコピーライターに立ちはだかる壁は
大きく3つあると考えます。

①デジタル解析
②デジタル化、多メディア化
③表現視座
の3つです。

まず①の「デジタル解析」に関してです。
私は10年前に「日刊・世界の広告クリエイティブ」というブログを書いて
Google Analyticsという解析ツールを入れてデータ解析していました。
また実際の業務でもデジタル系の業務も多く、
最近では会社からの指示で(全社員対象)Web解析士の資格も取得しました。

その中で、痛感するのが、
マス広告全盛の時代は、
直感に頼って広告表現をつくっていましたし、
調査することもありましたが、マス広告全盛期における調査というのは、
「質問紙法」という
対象者のセルフモニタリング能力のレベルで
結果が大きく結果が変わる荒いデータばかりでした。
「ややそう思う」とか言ってもねって思いますし。

しかし、
デジタルにおけるデータは、
(インチキなデータもたくさんありますが)
ちゃんと取られたデータに関しては
とてつもなく
信ぴょう性があります。

一番大きいのは
「行動データ」である点です。

商品を買った人自身が
自覚してなくても
ボタンをクリックして購入した
「無意識の部分」までもが
データに現れるのです。

これは
本当に恐ろしいことです。

そうなってくると今までの広告制作とは異なり、
広告表現までもが
PDCAサイクルに組み込まれ、
ターゲティングやA/Bテストによって
表現を複数作って試して修正するという、
これまでとは全く異なる
表現話法が求められるのです。

私の経験上、
クリエイターというのは
全身全霊で
自己投影しながら
表現をアウトプットするので、
修正は嫌いですし、
苦手だったりします。

しかし、
この潮流は
有無を言わさず
やってくると思います。

次に②「デジタル化・多メディア化」に関して。

今までの「マス広告だけで何もかもが解決していた時代」というのは、
新聞やTVという「超巨大な舞台」から、
「最大公約数的なメッセージ」を「一方的」に訴求すれば、
「メディア量のパワー」も相まって、
「破壊的な力」を生んでいました。

しかし、
スマホを中心にメディアの増殖が進むことで
1つのメディアだけでは充分な人に
充分な時間接触することは出来なくなり、
どのメディアも充分なリーチとフリークエンシーは
提供できなくなります。

広告の累積効果は、
幅広く多様なメディア の「蓄積」のみで
得られるようになります。

メディア間の相互依存が増えるのは確実です。

複数のメディアや手法を組みあせて
最大の拡散効果と効率を上げるなら、
その中心となる
「新しいクリエイティブ話法」が重要になります。

それは、これまでの様に「静的な世界観」を「一方的」に
押し付けるこれまでの表現話法ではない、
「受け手を主人公」としてとらえた
「ストーリー性のある表現話法」でないと
効果は低い気がするのです。

最後に③「表現視座」です。

個人的にはこれがかなり大きいと思っています。

今までのマス広告というのは、
マス媒体という
超巨大な大舞台から
拡声器で伝えるという
「実は異常だった状況」で培った
「特殊な表現文化」であった様に思います。

そして、
私自身の心の深いところを内観したことで感じるのが、
「表現の特権階級」だったことによる
「押しつけスタイル」が「無意識レベル」で根付いていることです。

私たちは、
個人がマスとつながる醍醐味を味わえる数少ない特権階級だったのです。

そのことで、悪気もなく、かつ無意識で
「どこか偉そうなスタンス」が体に根付いてしまっている様に感じるのです。

また、マスのクリエイターの人と話して、強く感じるのが、
デジタルにより変革しつつある
「生活者の表現欲求」や
「広告不信」を
「低く見積もる傾向」があるという点です。

「なんで、しょーもないことをツイッターとかでつぶやくんだろうね」
ですとか
「デジタル空間での人々の情報発信なんかレベルが低くて取るに足らないよ」
みたいな。

この視点は、マス広告の全盛期の感覚を引きずって
プロとアマという一元的な二項対立で見たことによる発言だと思います。

しかしながら、現在起きている変化というのは、
そんな単純な視点では語りきれないものであると思うのです。

私たちがアマと決めつけてる人々の一部が
うねりの様になって、これまでの価値観を破壊しつつあると感じるのです。

「上から目線的なモノ」に対する
「復讐するかの様な制裁」が
世界中で見られますし、
この流れは
「今後さらに大きくなる」様に感じるのです。

インターネットという
ワールドワイドなウェブは
世界をフラットにして
情報の特権階級をその台座から
引き摺り下ろすという力学が
生まれている感じがするのです。

そんな中、
マスクリエイターにおける一番の問題と私が感じるのは、
デジタルになっても
本質は変わらない
そして、
今までの自分のスタンスをまったく変えずに
それがそのままデジタル化、多メディア化する
と思う傾向がある点だと思うのです。

しかし、
デジタル破壊は、
私たちが今まで本質と思い込んでいた数々のことを
水面下で根底から激しく書き換えていて、
既に外堀は埋まっていて
ある日を境に、
天変地異が起きる
前夜の様に感じるのです。

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