リレーコラムについて

コピーライターを経験して良かったこと③広告は言葉のビジネス

望月和人

「アドエイジ」というアメリカの広告メディアが行った
「20世紀最高のクリエイター投票」で1位を受賞した
DDBの創始者「ウィリアムバーンバック氏」の名言で

広告は、
言葉の
ビジネスだ。

というものがあります。

真意はわかりませんが、
個人的な解釈では、
広告というのは、コピーはもちろん、
ビジュアルや、映像や、イベントなど、
「直接的な言葉」が「存在しない手法」であっても
それらは全て
「ある種の言語」を発していて、
広告とは、その言語を中心に
消費者や広告主に働きかけていくビジネスである。
つまり、
漠然とした曖昧な概念ではなく、
ハッキリとした「強い言葉」が
すべての広告活動およびブランディングを支えるビジネスである、
という様に捉えています。

私たちは、何かを思い出す時、
映像や印象で思い出すこともありますが、
やっぱり「言葉」が最も脳内で再想起しやすいと思います。

現在、世界中の広告やサインが、
「ノンバーバル」という非言語化の方向にシフトしつつありますが、
それでも、何かしらのランゲージやシンボル性という
ある種の「言語」が無いと収集つかないと思います。
属人的になり過ぎてマネジメントも出来ないと思います。

だから、
言葉という具体的なものが重要で、
中心になるのは言葉であるべきだと思います。
まず言葉ありきなのだと思います。

そんな中、コピーライターというのは、
当然、日夜「言葉と向き合う仕事」であるワケですが、
本日は「言葉」という観点で、
私が今になって思う
「コピーライターを経験して良かったこと」を
8つほど挙げさせて頂きます。

①言葉を通じた“実感”をベースにした企画を出す訓練になる。

昨今、過去のカンヌ受賞作の画像をパワポに貼って
「こういうことを今回の商品でやりましょう」
みたいな企画書が激増していますが、
写真や動画を活用すれば、
その企画書は立派に見えますが、
大事なのはその企画の「着眼点」と「コンセプト」が
「ユニーク」かつ「野太いもの」であることです。

短い文章で見てつまらない企画は
単に技術や流行に偏った表面的な企画
になる可能性が高いのです。
そして、
企画の真ん中にあるべき、
「人間の心を捉えた企画のコア」
というものがゴッソリ抜け落ちがちです。
ビジュアルを軸に企画をすると
派手で面白い企画になりやすい反面、
上っ面な企画にもなりやすいのです。

私は、言葉を軸に企画した場合の方が
人間の心に迫ったアイデアが出やすい気がしています。

ですから、
私は一緒に仕事をする新しい企画者に対しても、
デジタルやイベントを駆使した
どんな複雑な企画であっても、極力、
最初は「文字だけで企画を出して下さい」
と言う様にしています。

②商品との「ブリッジ」技術および
「ダブルミーニング」の技術が磨かれる。

昨今、新しい企画者たちは、
面白いアイデアだけど、
ブランドと何の接点も無い企画
を出す傾向が見られます。

もちろん、広告目的によっては
それでも構わない場合もあるとは思うのですが、
ブランドとブリッジする技術を磨いた上で、
技術や流行を活用していくべきだと思います。

ブリッジやダブルミーニングの技術は、
脳の使い方がかなり特殊なので、
かなり訓練しないと出来ません。

マスのクリエイターはこの辺の訓練は
かなり叩き込まれるので、
一日の長があると思います。

③予想を裏切る訓練になる。

これは新しい企画者たちにも
優れた人は大勢いますが、
あくまでも私見ですが
「言葉によって」
予想を裏切る訓練をした方が、
企画の足腰がしっかりする様な気がしています。

④「感覚的な概念」を、
「言葉に置き換える能力」が磨かれる。

個人的には、この点がコピーライターを経験して
最も良かった点であり、
コピーライター自体の大きな強みである気がしています。
これは22世紀になっても重要な感覚だと思います。

⑤言葉選びに繊細になる。

私は元々かなり大雑把な人間です。
コピーライターを経験して、そして本を2冊書いた割には、
文章は壊滅的に下手です。

ですが、
コピーライターを経験したことで、
言語感覚が「ー170点」くらいだったのが、
「ー50点」くらいにはなったと自負しています。
これは本当に良かったと思っています。

⑥文体や、韻や、言葉のリズムに敏感になる。

これも、私は元々、文章を書くにあたって
一切こういった視点は持って無かったのですが、
文章に関する繊細な配慮は
大勢の先輩方々から叩き込まれて、
かなりマシになりました。

⑦対句表現などレトリック力が向上する。

これは、一歩間違うと虚飾性の強い表現になって、
今日的な観点では、逆効果にもなりかねないですが、
レトリックは、うまくハマると破壊的な効果があると思いますし、
コピーだけでなく、無機質になりやすい企画書においても、
要所でレトリックを活用すれば
効果は高いと思います。

話は若干それますが、
ここ数年で最も関心したレトリックは、
(悪い例ではありますが)
「全米ライフル協会」の
銃を持った悪人を止めるのは、
銃を持った善人しかいない。
というレトリックです。
当然、私は銃規制は厳重にすべきだと思っていますが、
このレトリックは、すさまじい「自己正当化」を促していると思いました。
「思考のメビウスの輪」に放り込まれた感覚になりました。

いずれにせよレトリックは、
うまく活用すれば、とんでも無い力を発揮するのだと思います。

⑧視覚化された文字に対するセンスが
研ぎ澄まされる。

私がコピーライターになったばかりの頃の上司は、
サンアド出身の鬼才アートディレクターのお方でしたが、
たとえば、写植で作った文字の
カギカッコの線の長さをずっと迷われていて、
当時は何でそこまで悩まれているのかな、と思いましたが
「神は細部に宿る」という様に、
こういったディティールへの尋常じゃ無い配慮が
全体のクオリティーや到達率を高めるのだと思います。

コピーに限らず、企画書の文章表現などにおいても、
漢字/平仮名/カタカナの比率や改行のポイントなど、
視覚的にとらえた文章というのにも
「黄金比」というのは存在しているのだと思いますし、
コピーライターを経験したことで
こういった感覚は磨かれるのだと思います。

人工知能を描いた映画「her」のなかで、
AIがネットを通じて、故人である偉大な哲学者のAIと
「言語を超えたイメージのみでのコミュニケーション」を行う
というくだりがあるのですが、
いかに進化のスピードが上がっていると言っても、
さすがにそこまでの進化はしない気がします。

こういったテレパシーが行き交う様な世界にならない限り、
今後も言葉は重要であり続ける
と思うのです。

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