リレーコラムについて

シェア型書店をはじめてみた(3)

樋口尚文

さっそく吉祥寺に出かけて「シェア型書店」の「始祖」たるお店を見た。要は書架のひと棚ごとを月極でレンタルして、それぞれの棚ごとに思い思いの個性的な「ミニ書店」を開店してもらうというシステムだ。しかもみんなの「本屋の店長」をやってみたいという気持ちを活かして「一日店長」を持ち回りでやってもらえば、店員を雇う必要すらない。それどころか、この基本的なインフラをクラウドファンディングで作ってしまえば、開店資金がなくても「場」は出来るし、同時に賛同者、ファンも募集できてしまう。

こんなことをよく思いつくものだなと感心しつつ、しかしそんな「ミニ書店」の棚主をやってみたいと思う人がそんなに存在するものなのだろうか。それを確かめに実際の元祖「シェア型書店」を偵察してみたら、棚はほとんど満杯で、しかも驚いたことに私のずっと後輩の若い女性コピーライターの棚をそこに発見した。さっそく彼女をランチに誘って「シェア型書店」の面白さやシステムについて取材してみると、この素晴らしいシステムは自分流にカスタマイズする余地もありそうだし、まさかの「神保町の本屋さん」もひょっとしたら夢ではないのでは、と少しときめいた。

実はここに至る以前、東京五輪やコロナ禍の前夜に、うちのカミサンは神保町の錦華通りの小さなビルを外壁から内装まで独自にリノベーションして、けっこうスタイリッシュな民泊をおっぱじめていた。彼女は電通のコピーライターだったこともあるのだが、幸か不幸か私と出会って結婚出産のタイミングで早々に退社し、ずっと子育てに集中してきた。ところがなぜか独学でインテリアデザインの教科書に範として載ってしまうくらいの空間、内装コーディネートのセンスがあって、いきなり自己流の民泊を始めてしまうようなビジネス感覚も持ち合わせているフシギなひとである。

そして私同様に神保町が好きなカミサンが開いたおしゃれな民泊は、開業早々にAirbnbで見つけてくれた感度高き外国のゲストでずっと埋まってしまうくらいの人気だった。北欧の若い人気カメラマン氏から豪州のホワイトハッカーさんまで、客筋もひじょうにイケていた。夫婦して大好きなゴダールの『アルファヴィル』で近未来の東京が「トキオラマ」と呼ばれていたので、ビルの名前は「アルファビル」、民泊の名前は「トキオラマ」にして、ぴんと来た人には「何考えてるんですか」と爆笑された。ところが予期せざる規制問題が発生して、この遊びごころ満載の試みは撤退を余儀なくされた。

大好きな神保町の遊び場を奪われてもやもやしていたわれわれを、「シェア型書店」のアイディアはふたたび着火させてくれた。スイッチが入ると子どもみたいに行動が速いわれわれは、すぐさま神保町の物件を探し始めた。システムは「シェア型書店」なのだが、既存のその種の店は実質本位でそっけないので、そこはもっとしゃれたサロン的なものにしたかった。

カミサンともどもお気に入りの京都の「アスタルテ書房」と金沢の「純喫茶ローレンス」が合体したような空間がこしらえらえないものか。そんなことをつらつら構想していたら、神保町古書街の中心部から少し離れた隠れ家的ポジションに、元ネイルサロンという絶妙なサイズの物件が見つかった(つづく)

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