リレーコラムについて

デフレスパイラル

水本晋平

大学時代、
「デフレスパイラル」というグループに属していた。

グループといっても、
具体的な活動を目的とした団体ではない。
ただのサークルの同期男5人の仲間連中である。

僕たちは出会った瞬間から
デフレスパイラルだったわけではない。
ある出来事をきっかけとしている。
大学1年生の時に、サークルの同期女子に告白し、
結果フラれた、ということである。
しかも全員。3ヶ月の間に立て続けて。
これは衝撃的な事件だった。
無論、相手は全員別人だが、
よくつるむ男たちが、こうも連続して失恋するものか。
お互いに負の影響を与えあっているに違いない。
自分の人間としての未熟さには目を向けることなく、
僕たちは、傷を舐め合いながら話し合った。
泣く者もいた。自暴自棄になる者もいた。
皆が黙りこくった丑三つ時、誰かが言った。
「おれたち、デフレスパイラルやな」
オリジナリティこそはない。
しかし、なんと言い得て妙な表現だろうか。
ぼくは興奮した。
そうか、俺たちはデフレスパイラルなのだ。
全員フラれたのは、偶然なんかじゃないんだ。
相手の気持ちを想像できないからでも、
告白するタイミングを間違えたからでもない。
デフレスパイラルだからに違いない。
横文字だが、かっこよすぎない響きもいい。
今まで興味もなかった言葉に魂が宿った瞬間だった。
これが仮に「モテナイズ」にだったなら、
その夜を最後に5人が集まることはなかっただろう。
モテナイズなんて呼ばれてたまるか、と奮起して
今頃もっとナイスガイになれていたかもしれない。
言われてみればそうだ!という表現に出会う感動。
今思えばあれは、
コピーライターとしての原体験だったのだろう。
自分が書いてないことだけが悔やまれる。
なんとかスタッフリストに入れてもらえないものか。
ただの友達連中でもこうして名前がつけば、
帰属意識と連帯意識が生まれる。
その後、それぞれに彼女ができても、
ぼくたち5人は、デフレスパイラルという
「負」の連鎖でつながっていたように感じる。
ネガティブな表現ではあるが、
我々にかけがえのないネーミングだったのだ。
名は体を表すと言うが、
名前はその未来を指し示す力がある。
新元号が発表され、名前について考えながら、
大学時代を思い出して過ごしていた。
令和、いい響きですよね。

そんなデフレスパイラルも、
アベノミクスの3本の矢の効果か、
3人がすでに結婚し、幸せな家庭を築き始めている。
結婚式の度にデフレスパイラルは集結し、
互いの人生の門出を祝福する関係性となった。
1人は、この春、子どもにも恵まれた。
未来は着実に変わりつつある。
新たなネーミングが、そろそろ必要かもしれない。
そして、残すは僕を含む2人。
全員がこのスパイラルが完全に脱却されるには、
あと2本の矢が必要である。
総理、何卒!

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