リレーコラムについて

ドンセンパンチの破壊力

中川英明

皆さんは、「ドンセンパンチ」をご存じだろうか。

 

…え、知らない? ドンセンパンチを?

 

それは残念。知っていたら、教えてほしかったのに。

 

ドンセンパンチとは、

4歳になる息子が編み出した必殺技の名前だ。

 

ある日突然、なんの前触れもなく爆誕して、

以来毎日のように、攻撃対象=ボクに向かって放たれている。

 

やりかたは実にシンプルだ。

「ドンセンパンチ!」と叫びながら、

ボクの股間をまっすぐに撃ち抜く。ただそれだけ。

 

なぜドンセンパンチというのか、

なぜ父親の股間を狙ってくるのかは、一切わからない。

イタズラ、という言葉で片付けるには、

あまりにシュールでデンジャラスなローブロー。

 

あるとき、

「ドンセンパンチって何?」と聞いたことがある。

すると息子は、ちょっと首をひねったあと、

「ドンセンパンチ!」と叫んで股間を殴ってきた。

 

またあるとき、

「痛いってば!」と本気で叱ったこともある。

すると息子は、ハッとした顔をして、

「ゴメンね!」と言いながら、また股間を殴ってきた。

 

育児はたいへんなものだとは聞いていたが、

こんなに股間を殴られるものだとは知らなかった。

 

まだ同じ経験談を聞いたことはないが、

でも、きっと世界中の父親たちも、日々

ドンセンパンチで股間を殴られているのだろう。

ボクが知らなかっただけで、

父と息子の関係というのはそういうものなのだろう。

 

そう思うと、道を歩く他の父子を見るだけで胸が熱くなる。

「ああ、あなたも股間が痛いですよね…お互い頑張りましょうね」

そんな気分で、つい、名前も知らないパパ友の股間を見つめてしまう。

 

それにしても、息子は、

なぜこんなに執拗に股間を攻撃してくるのだろう?

自分がどこから生まれてきたのか、理解していないのだろうか。

お前さんは、いま必死に殴りつぶそうとしている

パパのまさにその股間から生まれてきたんだよ?

 

そう説明したいのだが、

説明する間にもドンセンパンチが飛んでくるので、

結局まだできないでいる。

 

とはいえ、最近はこっちもだんだん慣れてきた。

息子のドンセンパンチは、

ザンギエフの強パンチぐらいモーションがでかいので、

来ることさえわかっていれば、避けること自体はそう難しくない。

 

大きく振りかぶって、拳を突きだしてくるその動きに合わせて、

こちらの腰を、ひらがなの「く」の字にサッと引けばよい。

 

ただ、それでも息子のドンセンパンチは、

リュウの波動拳のハメ技のように連続で放たれてくるものでもあるので、

時々はよけきれずに食らってしまう。

 

ドンセンパンチがクリーンヒットしたときの息子は本当にうれしそうだ。

苦悶の表情を浮かべるボクを見て、実に屈託なく、

まるでジョーカーのような笑顔で笑っている。

 

息子の名前には「笑」という字が入っている。

たくさん笑う子に育ってほしくてつけたのだが、

イメージしてたのは、こういう笑顔ではなかった。

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