ボクの「ぼくの好きな先生」
RCサクセションの曲に「ぼくの好きな先生」というのがあります。
たばこを吸いながら いつでも部屋に一人
ぼくの好きな先生 ぼくの好きなおじさん
たばこと絵の具のにおいの あの部屋にいつも一人
たばこを吸いながら キャンバスに向ってた
この曲を聴くとボクは必ず、小学生の時の「とある図工の先生」と「なんとも言えない複雑な気持ち」を鮮明に思い出します。
ボクが小学生の時に図工を担当していた中野先生という先生は、まさにこの歌に出てくる“先生“そのものでした。
小学5年生の時に、僕らの学校に赴任してきた中野先生。
ショートカットでキツネ顔、年齢は40〜50代頃。
子ども達に人気のある快活な先生とは明らかに雰囲気の異なる、
低い声とたどたどしい喋り方のその自己紹介は、
ボクたち小学生に「この先生、どこか変だな。」と思わせるには十分でした。
中野先生は1学期から「普通じゃない。」に敏感な同級生の好奇心の的でした。
先生が話している授業中、コソコソ目配せをして笑うヤツ。
休み時間、ものまねをして笑いをとるヤツ。
けれど絵を描いたり、版画を彫ったり、元々図工の時間が大好きだったボクは、
そんな中野先生が嫌いではありませんでした。
授業を重ねる中で、どうすれば楽しくうまく絵を描けるか、を丁寧に教えてくれる「実は優しい先生の人柄」を知っていたからです。
そしてもう一つ、先生の態度や所作に「本当は絵を描くのが好きなだけなんだけれど、しょうがなくこの先生という仕事をしている。」というメランコリックな雰囲気を子どもながらに感じていました。
子供の見本であろうとする他の先生とは明らかに異なる時間とルールの中で生きているような「自由さ」を中野先生に無意識に見出していたのでしょうか。
先生はボクらの「なんか違う。」の予想、そのままにパンクでした。
授業中、やんちゃ生徒が話を聞かずにふざけ続けていたことにカッとなり、椅子を投げたという話を聞いたり。
ボクが片付けを手伝うために図工室の隣にある準備室の扉を開けると、コレでもかと山のように積まれた吸い殻を発見したり。
日が経つにつれ、同級生の中では「この先生、ヤバい。」という認識がどんどんと定着していきました。
当時クラスでお笑い担当で人気者寄りだった自分は、この同級生みんなの「中野先生、ヤバい。」と自分の「中野先生、好き。」の合間で揺れ動き、八方美人な振る舞いをしていました。
授業中、みんなの前で先生がボクに話しかけてきた時。
「やばい、中野に今ロックオンされてんねんけど〜笑」というお調子者な表情をクラスメイトにしつつも、
本心では「先生の話を真剣に聞いて、もっとお話したいのに…」と胸が少し痛んでいる、あの複雑な感情。
自分がクラスメイトとも先生とも、どちらとも心を通わせられていないような気持ち悪い、あの感じ。
今でもこの曲を聴くと、子どもながらに八方美人な立ち振る舞いをしていたあの時間の、居心地の悪い何とも言えない感覚が鮮明に蘇るのです。
中野先生。
今でも元気に絵を描いてらっしゃいますでしょうか?
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