リレーコラムについて

ムギトロスト

大津裕基

昼、定食屋に友人を誘って行った。私は緊張していた。入店前からその店のことをべた褒めし、二階くらいまでハードルをあげていたからだ。味から接客からあれだけ褒めたのだ。少しでも不備があれば、彼は店ではなく私を非難するだろう。自分から誘っておいて重い気持ちで扉を開ける。しかし、その心配は杞憂に終わった。

結論から言うと不備はあった。だが店ではない。彼だ。この店の自慢の一つとも言えるトッピングの麦とろをお盆の上にぶちまけたのである。

ほとんどの麦とろがごはんではなくお盆をトッピングしてしまい、麦とろの「ろ」くらいがわずかに茶碗にもぐりこんでいった。もしテーブルの上にこぼしたのなら、私も一緒に拭いただろう。しかし今回被害にあったのは彼のお盆だけである。一緒に拭くとかえって彼がかわいそうだ。隣席の女性二人組はこちらの惨状を見て見ぬふりをしながら、知人男性主催のクリスマスパーティーに行くか行かないかの話題で盛り上がっている。彼のお盆もおしぼりで盛り上がっている。

何事かをつぶやき、ニヤニヤしながらなんとか事態を収拾した彼は、ようやく「ろ」がかかったごはんをかきこみ、「うまい!」と目を丸くした。そうだろう、そうなのだ。わずかな麦とろを愛おしそうに食べているので、「もったいなかったね」と慰めるつもりで話しかけた。すると彼は言った。

「うん、お盆の麦とろもすすればよかった」

私がもったいないと言ったのは麦とろをお盆にこぼした行為を指す。しかし彼はお盆にこぼした麦とろを、きれいに拭いてしまった行為をもったいないと感じていたのだ。

その後はトラブルなく食事を済ませ(途中おしぼりを追加発注した)、次は美味しいサンドイッチを食べに行こうと約束をしてそれぞれの職場へと戻った。おそらくサンドイッチはお盆に乗ってはこないだろう。もし具をこぼすとしたら床だ。ドキドキする。

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