ラブレター③
親が先生あるあるだと思うが、
父は声のでかい人だった。
年頃の姉たちは外出先で、よく恥ずかしがっていたし、
僕自身も少し恥ずかしかった。
そんな父は、ガンのため声帯を摘出する。
気道を確保するために喉元に穴を開けることになり、
声を出す以前に、呼吸も大変そうだった。
父の大声で満たされていた我が家は、急に静かになった。
僕たちは、寂しくて寂しくて大変なものを失ったことに気づいた。
そして、父は必死にそれを取り戻そうとしていた。
声帯を使わない発声法を何度も何度も練習し、
声を出す際に喉元の穴を塞ぐ器具を、研究室の工作機械を自作していた。
バルサ材で作ったものが一番いいと喜んでいたことを覚えている。
あらゆる試行錯誤を繰り返して、父はなんとか声を出せるようになった。
そして、父はもう一度教壇に立つことができた。
声を絞り出して、学生さんに授業を行った。
その日の夜のことをはっきりと覚えている。
父は珍しく喜びを隠さなかった。
顔を赤くしながら喜んでいた。
控えていたお酒も少し飲んでいたのかもしれない。
僕は、その時一緒に同じ分だけ喜べていなかった。
当たり前のように感じていたのかもしれない。
それだけ、僕の中で父は変わらず強い存在だった。
そんな言い訳をしても、後悔は拭い去れないのだけど。