ラブレター⑤
母の名前は、九二子と書いてクニコと読む。
祖父母が二人の子どもを幼くして亡くした後に生まれた母に、
九十二歳まで生きて欲しいと願ってつけた名前らしい。
話すことも書くことも笑うこともジェスチャーもできなくなった父は、
八月に奇跡と言える復活を遂げて、
なんとか母の名前をなぞった九月二日までたどり着いた。
僕が「おはよう、今日は九月二日だよ。」と伝えた朝、
いつもより強く手を握り返した父は、
ありたけの想いを込めて自分の灯火を吹き消したのだろう。
自分の命日に、母への感謝と愛情を刻んだ。
葬儀の後とは思えないテンションで、僕は家族に話した。
みんなが同じように、笑って泣いた。
大きい方の姉が「やっぱり、お父さんっていいよね。」と言った。
僕たちは、うなづきながら笑って泣いた。
僕は、こんなにロマンチックなラブレターを知らない。
嘘みたいによくできた話だが、
僕が高一の夏の終わりに体験した本当の話だ。
今年は、父の二十五年忌だ。
長い長い話に付き合って頂いた方、ありがとうございます!
来週は、同期の野崎くんにバトンを渡します!!
野崎くんは、いつもいい仕事しているので、
明るくて楽しくて学びになるコラムを書いてくれると思います!
みなさん楽しみですね!!