リレーコラムについて

ワインのラベル

杉山元規

平日は朝から晩まで仕事と育児がビッシリで、気づけば土曜日。

やばい、まったくコラム書けてない。

そして、宣伝会議賞の審査も来週までにやらないと、やばい。

 

今日は早朝から人間ドックだったのでぐったりしているが、

息子がリビングで昼寝している今がチャンス。

自宅の小さな書斎に篭り、このコラムを書き始めている。

デスクのすぐ隣には、書斎のサイズに不釣り合いなワインセラーがある。

中に入っているボトルの数は、今ざっくり70本。

フランスやイタリアのワインは1本もない。

すべて、カリフォルニアワインだ。

 

なぜ、ボルドーやブルゴーニュではなく、カリフォルニアなのか。

それは、実際に自分がワイナリーに足を運び、

ヴィンヤードや醸造設備、樽が並ぶセラーを見学したり、

テイスティングをしたり、オーナーや生産者と話をして

持ち帰ったワインだけを所有したいから。

なんだか、仕入れ業者みたいだけど。

 

カリフォルニアワインの一大生産地ナパやソノマには、

これまでに7度ほど行った。

正確な数はもう分からないが、

訪れたワイナリー数は100軒を超える。

 

ヨントヴィル、オークヴィル、ラザフォード、セントヘレナ、カリストガといった

ナパの中心部には、豪華でビッグなワイナリーがずらりと並ぶ。

もちろん素晴らしいワインが多いのだが、

僕のワイナリー巡りの醍醐味はむしろその周辺にある。

 

ナパには、中心部を囲むように4つの山がある。

ハウエルマウンテン、スプリングマウンテン、ダイヤモンドマウンテン、マウントヴィーダ。

そして4つの山の中には、個性豊かなワイナリーがたくさん存在する。

ナビも届かないような山奥に、ひっそりと佇む山小屋ワイナリー。

利益なんて度外視、頑固なこだわり偏屈男のワイナリー。

コンサルタントも雇わず、家族だけで営む小さな小さなワイナリー。

豪華なテイスティングルームなんてない、

トラクターの脇や葡萄畑の真ん中で犬たちと戯れながら過ごすワイナリー。

日本人はもちろん、アメリカ人も誰も知らないような超少量生産のワイナリー。

そんなワイナリーを見つけて訪れるほうが、ワクワクする。

 

直接連絡してアポをとる。

時には、メールも電話も一切繋がらなくて突撃訪問したことも。

変な怪しい日本人がいきなり来たぞと動揺しながらも、

ワイナリーの人たちは本当に温かく迎え入れてくれる。

ワイン造りのこだわりや情熱、

美味しさやテイスティングノートを話し出すともう止まらない。

帰る頃にはすっかり仲良くなり、そこで出会ったワインが特別な1本になる。

 

ワイナリー巡りは、宝探しだ。

 

こうしてゲットしたお宝を、思い出や物語とともに

自宅のセラーで何年も何十年も寝かせて所有する。

アートを所有したことがないのでその感覚と同じなのかはわからないが、

時々セラーの扉を開いては静かに眠るワインのラベルを鑑賞し、

さて、このコルクをいつ抜こうかと未来に思いを馳せる。

 

1週間が過ぎるのも13年の時が経つのも、あっという間。

セラーに寝かしている特別なワインを開けて、

息子と一緒に味わう日もきっとすぐに来るのだろう。

 

鼻腔にずっと残り続ける香り。凝縮されたエキスが身体中に染み渡る。

ワインがひらいてくるにつれて、出会った時の景色や思い出が蘇ってくる。

触れたこと、話したこと、感じたことが溢れだし、

冷たいはずなのに温もりを感じるのだ。

 

ナパやソノマで出会ったみんな、元気かな。

コロナが収束したら再訪しよう。

また、宝探しに出かけよう。

 

 

さて、このバトンを次週つなぐ方ですね。

あえて前回、13年前のコラムの時と同じ方にしてみました。

ちょうど2週間前に、ピラミッドの原プロデューサーの計らいで実現した

小田桐昭さん藤木さんとの会食でも、久々の再会をしたばかり。

今は広告会社からフィールドを広げ、

TikTokでクリエイティブディレクターをしている橋本剛典さんです。

それでは、よろしくお願いします!

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