リレーコラムについて

人間って、いいな

シャハニ千晶

今日のタイトルは「人間って、いいな」である。若い方は知らないかもしれないが、1975年から1994年まで放送されたアニメ番組「日本昔ばなし」のエンディングテーマだ。

「コピーライティング」の仕事を引き受けさせて頂くとき、自分の中で一つだけ小さなルールがある。それは、この仕事は将来、娘に誇れる仕事かどうか、である。10年後「これはママがお手伝いした仕事だよ」と自信を持って言えない仕事は、きっと後悔するし、そもそもそういう仕事は結果的にサスティナブルではない、という判断になる。
高倉健さんが、タバコの広告に出たことを後悔していたという話を聞いたことがあるが、あれは本当のことなのだろうか。

これもフリーランスだからできる判断だろうと思う。でも、面白いことに「エシカル」や「インド料理」に携わっていることを周りが知ってくれると、自然とそういう関連の仕事が増えてくるようになった。やっぱり自分が何を好きかは、はっきり周りに意思表示した方が良いのかもしれない。

その基準ができたのは10年前くらいのことだ。ある日突然、コピーを書く手が止まってしまった。あるメーカーの飲料の企画を担当させて頂いていた時、これをこれから生まれて来る自分の子どもに勧められるかどうか、という自問自答に答えることができなかった。その商品の価値はきっとあるのだろう。でも自分の中でその価値は、大量の広告とPRという肥料を与えなければ育たないような価値に思えた。いつもならやってのける自分の手が動かず、愕然とした。

その時ふと、時代が変わって来ているのかもしれない、と思った。広告が子ども騙しのようなことを言っていても、買う人は自分たちで生産地を調べ、トレーサビリティをチェックし、商品の美味しさも、疑問も、全てSNSやネットで発信しその情報は瞬く間に共有されていく。メッキのような言葉は、いとも簡単に剥がされていく。そう考えて、商品そのものに物語のある「エシカル」や「フェアトレード」に興味を持つようになった。中身(事実)より、強いコピーはないと思った。

最近、器のギャラリーの仕事で、頻繁に佐賀県に行くようになった。友人が紹介してくれた佐賀県庁の方が、休日にもかかわらず、いつも一緒に作家さん訪問に付き合ってくださる。「今日はこことここ、それから時間があったらここにもいきましょう!」とスケジュールをみっちり組み、自分の車を自分で運転して案内してくださるのだ。長崎の波佐見焼の話を投げかけても、ちっとも話に乗ってこない。ああ、この人は本当に佐賀が好きなんだなあ、と思う。

その人に、佐賀県のPRイベントを都内でしないか?と持ちかけた。「良いですね!」という返答が来るかと思いきや全くそうではなかった。「僕はね、過去にそういう打ち上げ花火的なイベントを沢山やって、その後結局、そういうイベントは実を結ばなかったんです。イベントのあと契約が終わると、大概みんなすっと消えてしまう。僕は、千晶さんみたいな人に佐賀県の器をPRしてもらいたいんです。人、料理や器のギャラリーを通して、時間をかけて、本当に感じたことを伝えてもらうことが一番なんです。」

それを聞いた私は言葉が出てこなかった。こんな話を聞いたら、どんなサポートでも引き受けたいと思った。迸るような人間力。まだまだ器に未熟な私を信頼してくれている。一方で、彼の言っていることも、彼自身の態度も、これからの時代のビジネスの作法を言い当てていると感じた。つまり結局は、人、にかえっていく気がする。

クマの子見ていたかくれんぼ
お尻を出した子一等賞
夕焼け小焼けでまた明日 また明日
いいないいな 人間っていいな
美味しいご飯に ぽかぽかお風呂
あったかい布団で眠るんだろな ボクも帰ろおうちへ帰ろ
でんぐり返しで バイバイバイ

隠れんぼでお尻を出した子が、一等賞。子供の頃、初めて聴いた時は衝撃だった。
私には4歳の娘がいる。ジャンケンをしようとすると、つい最近まで、後出しジャンケンで絶対に自分が勝とうとしていた。それが最近になって、ちゃんとしたタイミングで手を出して、負けても嬉しそうな顔をしている。自分が勝つことよりも、相手も楽しいことが彼女の中で優ったのだろうか。母親である私にとっては、まさに、そのことに一等賞をあげたい気持ちだった。順位の一等賞は一等賞とは限らないこと、を彼女は私とのやり取りから嗅ぎ取ったのだろうか。

「いいな、いいな、人間っていいな」娘にこの歌を歌う時、いつも思う。彼女が大人になった時、にんげんで良かったと、この世界に生まれてきて良かったと思ってくれるかなあ、と。私も良いけど、あなたもいいね、と言える人間になってほしい。自分もそうでありたい。

 

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