リレーコラムについて

令和の写経

飯田麻友

いま、1年目コピーライターの

メンターを担当させてもらっている。

彼の名は、イトウくん。

笑顔が爽やかで、人当たりがよく、賢く、なにより素直。

(しかも、このコラムに書いてもいいかと聞いたら秒で快諾してくれた。)

「新人」を絵に描いたような、

フレッシュという言葉が似合う好青年だ。

 

そんな彼は、「学び」マニアである。とにかく成長欲求がすごい。

「今日は、こんな学びがありました」「○○○○は、学びだと感じました」

といった具合に、「本日の学びベスト3」を、まいにち日誌に書いてくれる。

1日の労働時間内に、いかにして学びを得たか。

その姿勢には、タイパを重んじる時代の空気を感じる。

 

だからこそ、年鑑の写経は心が落ち着くという。

なるほどそうだよな、と思う。

アウトプットはすぐには成長を実感しづらいが、

インプットはわかりやすく「学び」につながる。

昨日よりも今日、知っているコピーが増える。

しかも、ノートに手書きで写経しているという。

タイパは悪そうだが、私の新人時代の手法をちらりと伝えたら、実践してくれているのだ。

(手書きがベストかどうか、そもそも写経が必要かなど賛否があると思うが)

 

ある日。

そんな彼のノートを見せてもらったことがある。

「こんなふうに写経していて…」とひらいたページには、

見たこともないコピーが並んでいた。

 

・・・いや、コピーじゃない。

審査員のみなさんのコメントだった。

 

「コピーも面白いんですけど、

コメントがめちゃ面白いんです!!」

 

イトウくんは言った。

「○○さんのコメントは視点に学びがあって特に好きです」

「○○さんは意外とこのコピーほめてないんだな、とかもわかって面白いです」

なるほど…その発想はなかった。

審査員のみなさん。

コメントも写経されていますよ。

私が新人だった頃にはなかった審査員コメント。

たしかに、どうしてこのコピーがほめられているのか、

理解しないことには自分のものさしをどう持てばいいかすらわからない。

なんてありがたい進化なんだろう。

 

応募数が減っているとか、いろいろ聞こえてくるが、

コピー年鑑は、いまの時代も、唯一無二、

すべてのコピーライターの教科書なのだ。

私自身、なにかと足りない人間で、

彼に教えられることは、本当に本当に、申し訳ないほどに少ない。

だからこそ、年鑑に、そして年鑑の進化に、感謝した。

会員のみなさん、歴代の編集委員のみなさん、ありがとうございます。

 

イトウくんが、みなさんのコメントを

自分のコピーに活かす日はきっと遠くない。

いや、きっともう活かしはじめている。そう思う。

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