前口上の世界
昭和歌謡ブームは、ただの一過性ではなさそうです。
うちの職場でも、1970年代から1980年代の
流行歌をこよなく愛する若手たちが多くて、
カラオケなどに行くと、
その歌唱力や選曲のディープさに舌を巻く。
演歌や歌謡曲は、歌詞から先に作られると言いますが、
なるほど一言一言が、深く、せつない。
そして時代を反映して、重たい。
カラオケ画面の言葉たちを追いながら
「こんなの書いてみたいなぁ…」と憧れるのは、
コピーライターあるある、でしょうか。
そして、歌にまつわる言葉といえば、
曲紹介の「前口上」も忘れてはいけない。
それぞれの歌がもっている情感や世界観を、
じつに見事に立ち上げてくれます。
旅に出たのは 何故だと尋かれ
ひとりぼっちは 何故だと尋かれ
涙がひとつ 答えてる
遠く煌めく 灯台だけが
私の恋を 知っている
旅に疲れた 女がひとり
「津軽海峡冬景色」
石川さゆりさんです〜
とまあ、このように
お馴染みのイントロに乗せた七五調で、
歌を聴くための心の準備がすっかり整います。
明日という日からは
こんなに たやすく
逃げることができるのに
昨日という日からは
決して逃げることが
できないのです
「恋の奴隷」
奥村チヨさんが唄います〜
ああ哀しき、人間の不条理よ。
そうだよなあ!と膝打つコピーライティングが流石です。
言えないことを 言いたくて
飲めないお酒を 飲みました
見れない夢が 見たくって
切ない嘘も つきました
みんな溶けてく グラスの氷
恋も 涙も 思い出も
「酒と泪と男と女」
河島英五さんが唄います〜
アタマの二行から、もうたまらない。
こういうレトリックに照れてたら、聴衆の心になんて届かないのだ。
男がいて 女がいて
燃えて 別れて 未練が残る
人生とは そのようなことの繰り返し
よくある話ですね
どこにでもある話です
「今日でお別れ」
菅原洋一さんです〜
4〜5行目に痺れます。
特に5行目の「どこにでもある話です」に震えます。
以上は、かの名司会者 玉置宏さんの仕事です。
構成作家が用意した台本でなく、すべてが自作のフレーズ。
しかも、同じ曲紹介は二度としないのだそう。
ステージは生き物である。
名曲「川の流れのように」だって、
ひばりさんの生きた時代、亡くなった直後、
三回忌、七回忌、十三回忌とでは時代は違うわけで、
曲紹介も違わなきゃおかしいのだと言います。
様式がしっかり確立されてそうな歌謡曲の前口上であっても、
つねに時代との呼吸を大切にするというのが興味深い。
人間の普遍と、時代の変化とのせめぎ合い。
これからも、正解なんてないのでしょう。
広告だって、その都度立ち止まって悩むことが
近道なのだと自分に言い聞かせて、
そろそろ、一週間のコラムを締めくくります。
さて、次のバトンは、同期入社の親友に渡します。
愛と行動のスケールが大きい人物です。
せっかくなので、前口上っぽく紹介しようと思う。
酒と別れを告げたのは
酒に愛され過ぎたから
しらふの奥に 狂気をしのばせて
今日もはるかな旅路をめざす
愛のクリエイター
鈴木聡さんが唄います〜
じゃ、よろしくねー!