在庫のない仕事
こんにちは。
大久保浩秀さんから
バトンを受け取った多胡伸一朗です。
フリーランスのコピーライターをしております。
リレーコラムを担当するのは2012年以来でして。
TCCには毎年新しい会員が入ってきますし、
自分にバトンは一生まわってこないだろうなと思って、
心おだやかな日々を過ごしていたのですが、
それは何の前触れもなく突然やってきました。
これから一週間、
お付き合いのほどよろしくお願いします。
さて、一日目は、自分の職業に関する
話を一つさせていただきますね。
僕が独立したばかりの頃、
父からこんなことを言われたんです。
「お前の仕事は、あれやな。
在庫がいらんし、在庫リスクもないからええな。
ほんま、ええ商売やな」
父は東大阪にあるネジの会社で、
定年まで営業職をしていました。
現役時代は、営業部長として日々、
ネジの在庫のことで頭を悩ませていたのでしょう。
その言葉を聞いた時、
なるほどと思いました。
確かに、さまざまな商売がある中で、
コピーライターは在庫を持たない商売です。
参考資料を買ったりするくらいで、
大した仕入れもありません。
コピーライターに限らず、クリエイティブ系の
職業の多くがそうかもしれませんが。
とはいえ、「在庫がない」という表現に
少しだけ違和感があったんです。
僕は父にこう返しました。
「いやいや、在庫は必要やで。
コピーライターの仕事って、物理的な在庫はないけど、
知識、情報、ネタ、経験、視点、感情とか、
心の中にたっぷりと在庫が必要やねんで」
父の前ではじめて、
コピーライターっぽいことを言った
瞬間だったかもしれません。
その台詞を発している時の自分が、
ちょっぴりかっこよくて惚れ直しました。
仕事の話をする時の父は、
いつもうれしそうに声を弾ませます。
戻ってこない現役の日々を回想して
寂しそうな目をしていた日もありました。
ああ、この人は本当に仕事が好きだったんだなと
痛いほど伝わってくるのです。
物理的な在庫を持たなくても、
会社員じゃなくても成立するこの仕事で、
自分もできる限り長く現役でいたいと思いました。
そのためにも、
心の中の在庫をストックし続けます。
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