リレーコラムについて

好きなコピー、気になるコピー

原麻理子

こんばんは。
今週リレーコラムを担当している、原麻理子です。
あっというまに最終回、ちょっぴり名残惜しいです。

さて、これまで3回、コピーの話を全然してきませんでしたが、
最後にしっかり、好きなコピー、気になるコピーについて書きたいと思います。
(コピーもちゃんと好きなんです!)

一、二、三階、七分咲き。
四、五、六階、八分咲き。
(伊勢丹/土屋耕一/1981)

リズムが最高なコピー。
伊勢丹の「FLOWER FESTIVAL」という
春のキャンペーンに合わせて書かれたコピーですが、
そんなこと知らなくても、この弾むようなリズムだけで
もう口に出したいし、なんだかうきうきしてくるじゃないですか?
このコピーを声に出すとき、日本人ならたぶん、
いちにっさんかい、しちぶざき。
しいごおろっかい、はちぶざき。
みたいな感じで、8・5、8・5というリズムで読むと思うんです。
つまり、七五調の変形です。
さすが、俳句をやっていた土屋さんだなあ、
と思うのは、考えすぎでしょうか。
土屋さんのコピーでは、
「太るのもいいかなあ、夏は。」
も大好きです(遠慮がちな「かなあ」と、「夏は」が最後に来るのが最高)。

 

ナイフで切ったように夏が終わる。
(パルコ/長沢岳夫/1982)

比喩表現を使った名コピー。
「ナイフで切ったように」終わる、というのはつまり、
「すぱっと」終わる、とも言い換えられて、
余韻を残さずに突然終わる、という意味ですよね。
たとえばこれが、
「花瓶を倒したように夏が終わる。」
「両手で顔を覆うように夏が終わる。」
などだと、比喩の解釈が一通りに定まらず、
いまひとつ意味がわからなくなると同時に、
なんだか詩的だな、という印象が強まるのではないかと思います。
もちろん、若者の感性の鋭さや傷つきやすさを表現するのに
「ナイフ」というアイテムがよく合っている、ということもありますが、
比喩の飛躍の範囲として、ここから先は詩になってしまう、という、
コピーと詩の境界を示してくれるようなコピーだと思います。

 

一瞬も一生も美しく
(資生堂/国井美果/2006)

対句表現を使った名コピー。
「一瞬」と「一生」の対比が鮮やかすぎて、痺れます。
今回、このコラムのために制作年を調べてみて、
2006年のコピーだということに驚きました。
こんな、どこにも隙のない、ことわざみたいな骨太な表現が、
2006年まで誰にも発見されていなかったって、すごくないですか?
私は、日本デザインセンターの入社試験のときに、
「好きなコピーはありますか?」
と聞かれて、このコピーを挙げたことを覚えています。

 

わた、しわ、めん。
(良品計画/磯目健/2014)

最後は、良品計画の大好きなコピーを。
このコピーは、なかなか一言では良さを説明できなくて、
いつも「とにかく、いい!」と言ってしまっていたのですが、
少しその理由を考えてみます。
綿の衣料品や生活雑貨のキャンペーンのコピーですが、
「綿(わた)、皺(しわ)、綿(めん)。」と読むと、
綿布の原料であるわたのふわふわした質感や、
天然素材ならではの、皺になってやわらかく肌になじむ様子が想起され、
ひらがなの表記と相まって、とにかく気持ちがいい。
「私は、綿。」と読むと、
私は綿を選ぶ、綿を着る、という宣言のようにもとれます。
こんなに短い(6文字しかない!)のに、
言葉から受け取れるイメージに多重性があって、
ずっと頭の中で転がしていたくなります。
たぶん、何かを言い切ったり、誤解なく伝えたり、という発想とは
違うところで書かれている言葉で、真似できないなと思います。
尊敬する日本デザインセンターの先輩が書いたコピーで、
コピー年鑑には掲載されていませんが、名作だと思っています。

※「ナイフで切ったように夏が終わる。」と
「一瞬も一生も美しく」は、コピー年鑑に掲載があります。
ビジュアルが気になった方は、年鑑もチェック!

以上、4回にわたってお付き合いくださり、ありがとうございました。
コラム書くのすごく楽しかったので、またバトン回してください!

来週のご担当は、坂本和加さんです。
なんと、あの「カラダにピース」を書かれた方です……!
「カラダにピース」、力の抜けた、理屈じゃない気持ちよさがあって、
かつ、乳酸菌が体にやさしいという商品特性にもしっかり紐づいていて、
長澤まさみさんほか歴代の女優さんにも似合って、すごすぎます。
一体どんな方なのでしょう。
しかも、一倉宏さん主催の俳句の会にも参加されている、ということで、
そんなお話も、あるかな、ないかな……?とても楽しみにしております。

それでは、またどこかで!
一度も書いていませんでしたが、お仕事のご依頼もお待ちしています。

mr.harappa@gmail.com
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instagram: mariko_hara

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