思ってたんと違う②
九州のスキンケアブランドを担当することになってから、
年間200日を越える九州滞在の営業ライフがスタート。
毎週、東京と九州を飛行機で2往復生活を繰り返しているうちに、
マイルと体脂肪が飛躍的に増えていった。
当時の営業チーム的には、
チームを離れた6年目の先輩の代わりの即戦力を欲しがっていたわけで、
新人は欲しくなかったらしい。
「石山は、6年目営業くらいの感じで働いてもらうから」
よって、OJTなんて手取り足取りな感じは数週間のうちに終わり、
あとは1人でクライアントと話し、クリエイティブチームを連れて、
仕事やってみなさいと。なんか困ったら、相談して。みんな忙しいからと。
とはいえ、何もスキルもない新人なので、とにかく足繁くクライアントに通った。
夏にクライアントのプライベートビーチで海開きがあったので、休日に1人だけ参加。
役員が所有するクルーザーに乗せてもらえたが、
クライアントさん達もなんで来たの?的な表情を浮かべていたこと。
さらに、
世の中で「1人カラオケ」という名称で呼ばれる前から、
1人カラオケで舟木一夫の演歌を何日も練習し、クライアントパーティで大熱唱するも、
演歌好きの役員は、うちの営業局長が外に連れ出していて不在。
200名近くの若い女性社員の皆さんの口だけが開いていたこと。
会長と秘書と役員から、なぜか僕だけお誘いを受けて、
コースのうなぎ料理をご馳走になるため郊外まで行き、
若いんだからと、皆さんの手の付けてないうなぎをすべて平らげたら、
お腹がいっぱいになり過ぎて、本当に席から立てなくなり、
数時間そのお店の席にそのままいたこと。
クライアント忘年会パーティのカラオケタイムで、
僕の出番がきたので、急いでYシャツを脱いで裸になろうとしたら、
Yシャツが千切れて、両袖部分だけ残った状態でステージに上がったこと。
などなど、楽しい思い出ばかり。
そんな楽しい営業ライフの中でも、学ぶことはたくさんあった。
その中のひとつに、今でも僕の指針としていることがある。
当時の営業の先輩であり、上司でもあるAさんの仕事ぶりにとても感銘を受けた。
この人の仕事を近くで見れただけでも、
4年間の営業時代は、とてつもなく意味があったと思う。
Aさんは、当時の営業チームの中心で、僕よりちょうどひと回り上の年齢で、
とても仕事ができ、クライアントからも信頼されていた。
顔も男前で、豪快に笑い、酒を飲み、いつもイキイキと仕事をしていた。
クライアントの会長、社長、役員、重役たちもみんなAさんのことを親しげに呼び、
何かにつけてはAさんに相談していたように思う。
そのせいか、営業チームの売上も伸ばしていき、アカウントも大きく成長していった。
僕は当初、女性のスキンケアブランドにそこまで思い入れを抱けなかった。
自分の生活にあまり関係ないもので、商品のことも感覚的にわからなかったからだ。
どこかで自分と少し距離を置いていたように思う。
しかし、Aさんはスキンケアブランドの将来や、
ブランドを使うユーザーのことをいつも本気で考えていたし、
社内でもよく話し合い、クライアントにも積極的にプレゼンし、
試行錯誤しながらも前に進めていた。女性のスキンケアについても、
とても勉強していて、なんならクライアントよりも
深い知識や知見がある箇所もあったように思う。
その姿勢や熱量は、確実にクライアントに伝わっていた。
なにより、たいして何もできない僕にまで伝わっていた。
Aさんの仕事は、
その企業やブランドに対して「愛とリスペクト」がいつもあったのだ。
だから、Aさんに仕事を頼みたくなるんだろう。
つい相談したくなるんだろうと思う。
営業の仕事は自社の売上と利益をどうアップするかが肝要であり、
ある種、ドライに、それを達成するためになんでもやるものだと思っていた。
でも、
思ってたんと違う。
「愛とリスペクト」を伴った、とても人間臭いものだった。
つづく。
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2日目は以上です。
敬愛する先輩をAさんと呼称したのは、
ご本人の確認を取らずに掲載するため、
名前を伏せさせていただきました。