リレーコラムについて

方針

中里耕平

「ラストオーダーですが、何か追加のご注文は…」
「あ、大丈夫です」

飲食店でのこの瞬間が少し苦手だ。
なにせ5つ前のテーブルぐらいから予感がありすぎるのだ。
「ラストオーダーの時間…」
「ラストオーダーとなりますが…」
徐々に近づいて来る店員。
次の次の次だ。
次の次だ。
次だ。
何を言われるかとっくに分かってるが、その感じがにじみ出るのも照れ臭いので、
自分のターンで初めて気付きましたみたいな顔をしながら、
けど頼まないのに時間を使わせるのも悪いので早めに、
「あ、大丈夫です」。

もちろんラストに何かを注文することもたまにはあるが、
思い返すと8割方は「あ、大丈夫です」と答えているように思う。

店員こそ大変である。
こんなに同じセリフを連続して何度も言う機会はそうそうない
(壊れたレコードとなり答弁をする政治家を除く)。
よほど、大声で
「みなさーん、ラストオーダーですよおぉぉ。追加の注文、ある人は手を上げて。ない人は足上げて」
と一回言って済ませられればいいことか。

そしてその30分後には、日本では『蛍の光』と呼ばれることの多い
『別れのワルツ』が店内に流れ、みんな帰り支度を始めるのである。

そう、別れのワルツが聞こえてきたら閉店時間。
非言語的メッセージである。
だったら、「この曲が聞こえてきたらラストオーダー」という
全国民なじみの音楽を決めればいいのではないだろうか。
店員たちをルーティンから解放するために。

どんな曲だろうかと夢想する。
「さあ最後のチャンスだ、食べとかないと後悔するよ」と煽るような旋律。
それはちょっとムードを壊すし品がない。
「もう一品いこうか…やめとこうか…」という揺れ動く心をイメージした美しい旋律。
それぐらいの方がいいかもしれない。

逆に、普段からNew Orderの楽曲を常に流しておいて、
それが急にプツリと途絶えたらニューオーダー打ち止めの合図。
そんな裏返しの発想はどうだろうか。
いや、どうせならやはりオリジナル曲を開発してみたい。

だが、こう書きながら、いま思い出したことがある。
リモートワーク化前にたまに行っていた担々麺のうまい新橋の某中華では、
店長らしき男性によるラストオーダー時の声かけが
「まもなく厨房の火を落としますが、追加のご注文は…」
というものだった。
なかなか風雅な表現だなーと気に入っていた。
あれは結構使われている言い回しなのだろうか。その店でしかぼくは聞いたことがないのだが。

ああいう言葉が聞かれなくなるのはさびしい。

なので、我々、全日本ラストオーダーテーマ曲策定委員会としても、
曲を使うことを強制したりするものでは決してない。
でも、もし曲を活用したい店があったら自由にどんどん使っていただきたい。
そんなゆるやかな方針でいきたい。

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NO
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