リレーコラムについて

旅立ち前夜

細川直哉

尊敬する杉山恒太郎さんからバトンが来た。突然に。
うわっ、取り落すわけにはいかない!と、つい掴んでしまったが
杉山さんのバトンは重い。
なにしろ先日まで日経新聞の文化欄で連載を持っていた方である。
杉山さんの豊かな人生と含蓄で熟成された味わい深い最上級ウイスキー的コラムの後に、
僕の薄くて水っぽい緑茶ハイみたいなコラムが来たら、全然味がしないんじゃないか・・・?

リレーだが、まったく助走してなかったから、今から走り出す。

せっかく走るから、コスモポリタンかつあらゆる文化に精通する杉山さんとは逆走してやろうと思う。
ということで、カルチャーからネイチャーへ。
ここ数ヶ月、生活の半分を北海道白老や知床の大自然の中で仕事しているドリルの細川直哉です。
一週間、僕の戯言にお付き合いください。

さて。

一人旅が好きだ。
googleのおかげで旅の冒険度がほぼゼロになってしまって今の若者はかわいそうだが、
僕が学生の頃はスマホもgoogleもSNSもなかったので、旅はとりあえず現地に行って誰かに聞く、
しか情報源がなかった。
いい旅になるかどうかは自分の嗅覚とコミュニケーション力しだいだった。
その無鉄砲が成功した時の「一人ご満悦感」がたまらなくて、バイトをして金を貯めては、
なるべく無茶が待ってそうな世界の果てに出かけていた。
放浪癖があるのかもしれない。
シルクロードの奥地ウイグル自治区とか、アラビア半島の南端イエメンとか、ケニアのマサイマラとか、
よっぽどの理由がない限りひとが行かないような世界の果ての国や大自然の中をフラフラしていた。
そのせいか、仕事でロケに行くときでも、スマホが圏外になると、がぜん心が騒ぎ出す。
普段生きている社会から解放され、匿名の異邦人となって現地の色濃い空気にまぎれ込み「消える」、
という感覚が好きなのだ。
今日は一日誰とも喋らなかったなあ、などと「清々しい」気持ちで振り返ることすらある。
前に勤めていた電通の入社面接で、その癖を早速見抜かれ、
「君、チームプレイ苦手でしょ」
と初対面の面接官にズバッと指摘され冷や汗をかいたことを思い出す。

脱線した。

一人旅の醍醐味は、「孤独」である。
孤独な旅は、いつ起きて、何を食べて、どこに向かってもよい。
誰の指図も受けないし、どこまで進むか、ここでやめるか、も自分次第。
結果、銃を渡されたり、パスポートを騙し取られたり、
荒野に一人置いてけぼりにされたりすることもしばしばなのだが、全て自分の責任だ。
どうなったって自分の責任なんだから、好きにやったっていいじゃん、
という「自由」がたまらなく好きなのだ。

孤独とは自由、だ。

とはいえ、危険と隣りあわせなので、だんだんリスクの匂いがわかるようになってくる。
命に関わる「トラブル」を、のちにネタにできるくらいの「ハプニング」にとどめる術が
身についてくる。
行き当たりばったりの行動に見えて、
リスクを回避しながらアンビリーバボーな体験をするためのプランは
実はしっかり頭の中で立てている。
そんなサバイバル力が格段に向上するのも孤独な旅の副産物である。
結果、ストレス耐性(ストレス回避?)能力も高くなり、
かつての理不尽かつブラックな広告業界でも飄々と過ごすことができたんだと思う。

なぜ旅の話を始めたかというと、僕は人生の大切なことをほぼ旅から学んだ気がするからだ。

そんな話をいくつかしてみようと思う。明日から。

 

旅のおまけ)

ケニアのサファリに行ったら、夜明けに気球に乗ることをオススメする。地平線から真っ赤な朝日が顔を出した瞬間、大地がオレンジ色に染まり疾走する動物たちの群れと、喰う喰われるの連鎖の現場が眼下に飛び込んでくる。この星は、決して人間のものではないことを圧倒的なスケールで見せられる体験は感動などという安っぽい言葉では表現できないくらいの衝撃だ。

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