日本宴会芸学会
日本宴会芸学会をご存知でしょうか。
知りませんよね。当然です。
日本宴会芸学会というのは、宴会芸を研究する民間団体です。
コンプライアンスの波が宴会および宴会芸というものを滅ぼしつつある中で、
明治以降の文献をもとに、演じ手のいなくなった宴会芸、
通称「絶滅危惧宴会芸」の保存などに取り組んでいます。
元を正せば会社の後輩夫婦からある日突然誘われ、
宴会芸の持つ可能性について熱弁する二人の熱に打たれて始まった活動で、
「学会」と称して中延の公民館などで宴会芸の研究と実践の場を設けてきました。
コピーライターの日下慶太さんのご紹介で
編集者の都築響一さんのメールマガジン「ROADSIDERS’ weekly」に
連載をさせていただくなど少しずつ活動の場を広げ、
NHKから動画提供の依頼や、
北海道のテレビ局から番組で扱う宴会芸の監修など、
宴会芸の研究機関としてメディアにも少しずつ認められつつありました。
そんな中でのコロナ禍。
宴会が社会悪そのものと言っても過言ではない状況になってしまいました。
明治維新以来、宴会芸の歴史において最大の転機と言えるでしょう。
それでも宴会芸学会はくじけませんでした。
正確にいうと、宴会芸学会の会長夫婦はくじけませんでした。
2020年春の緊急事態宣言下ではリモート飲みの流行を受け、
リモート飲みにおける宴会芸の研究を行いました。
結果としては、リモート環境は顔芸のディテールが見やすいという利点はあるものの、総体としてはリモート飲みは宴会芸には向いていないということがわかりました。
日本宴会芸学会が定めた宴会芸三原則に照らした時に、やはり無理が生じるのです。
宴会芸三原則をご存知ない方のために説明しますと、宴会芸学会の幹部諸氏が五反田のジョナサンで喧々諤々議論を尽くした末にまとめた、よき宴会芸の定義・原則であります。
宴会芸三原則曰く、
・自らを安全な場所に置くべからず
・己のアイデンティティに忠実であれ。
・(主賓または神への)捧げものであるべし
ここでいう「安全な場所」は、もちろん精神的なものも含まれます。
結婚式の披露宴や二次会の余興などで行われるゆるめのダンスや、その時々の流行の一発芸の真似事なども「安全な場所」に身を置いていることになります。
これらは地獄宴会芸と呼んで宴会芸学会から厳しく糾弾されることになっています。
リモート飲みにおいてはこの安全な場所にいるということがどうしても解決できない。宴会芸学会は大きな危機に直面しています。まだ解決の道は見つかっておりません。
しかし、こういう時代だからこそ生まれる真の宴会芸というものがありうるはずだという希望を捨ててはいません。
どんぶり飯に正露丸を山盛りにして一気に食べる「焼きいくら丼」。
食器用洗剤と水を口に含みくるくる回りながら泡を吹く「人間洗濯機」。
バブル期の人を人とも思わない宴会芸の数々などをご覧になればわかる通り、宴会芸は時代を映す鏡です。
遡れば太古の昔、我々の先祖は洞窟の中で火を囲みながら宴会芸を披露したことでしょう。凍える冬も、暑さの夏も。どんなに困難な環境であっても、宴会がなくなることは決してなかったはずです。
これからも人類は宴会芸を生み出すでしょう。
リモートの壁を突破する宴会芸も、
SDGsに貢献する宴会芸も、
火星移住後の宴会芸も。
宴会芸は人間の生きる力なのかもしれません。
「世界は宴会場。生きることは宴会芸。」
日本宴会芸学会が掲げるこの言葉を胸に、学徒の一員として、自宅にいながらも宴会芸研究の火を心のうちに燃やし続けなければと思っております。
日本宴会芸学会専務理事 中野原真澄
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