リレーコラムについて

桑田佳祐になりたかった

野﨑賢一

もう、24年も前になる。
中三の夏だった。

たまたま見たテレビで、ステージ上を駆け回り、
アップテンポの曲から、ちょっとエロい曲から、バラードから、
次から次へ縦横無尽に歌い上げ、お客さんを煽り、歓喜させる桑田佳祐の姿に、
一瞬で心を鷲掴みにされた。

それから、ラジオ番組「桑田佳祐のやさしい夜遊び」を聴いては、
FAXを投稿したり、桑田さんに読まれたりして、
京都のマンションの一室の片隅で、ほくそ笑んでいた。

もちろん曲も大好きなのだが、
どうやら、「ステージで輝く人になりたい!」と思ったのである。

「たくさんの人に影響を与えたい!」と同じジャンルの、
そりゃあ、もし、そうなれたらいいよね、な、恥ずかしい夢。

しかし、それは、人間の種類として、自分と最も遠い性質への憧れ、
壮大な「隣の芝生」であることに、徐々に気づくことになる。

ステージが苦手なのだ。

大学時代、軽音に入り、バンドでギターを弾いたりしたものの、
ステージでは恥ずかしすぎて、
自分でスピーカーのボリュームをこっそり小さくしていた。

ステージがものすごく苦手、なのに憧れる症候群。

苦手だからこそ、憧れるのかもしれない。

というか、ステージじゃなくても、
一人で話して、周りが聞いているというスタイル自体、
人数問わず、苦手。上手い人を見ると、すごく憧れる。

幼少の頃、焼肉屋で大きな声で「すみません!」と言って、
家族の食の様子を見ながら、肉を適宜、注文していく父親を見て、
不安におののきながら「俺もこれと同じことを将来やってのけたい!」と誓ったことを
鮮烈に覚えている。レベルが低い。

そして、桑田佳祐に憧れていたら、
試験に3回落ちてやっと、だけれど、
クリエーティブという仕事にたどり着いていた。

自分の考えた「企画」が、いろんな人の力を借りてステージに立てるこの仕事。
誰かを歓喜、まではいかないけれど、喜んでもらったりできる仕事。
日々、プレゼンというステージがあるこの仕事を目指したのは、
そんな理由があるのかもしれない。

無謀な夢とか、苦手なものへの憧れとかって、
その夢や憧れが叶わなくても、
何かどこかへたどり着かせてくれる力になるものなのかもしれない。
と最近思う。

これからも、桑田佳祐を目指して、
この、クリエーティブの仕事でがんばろうと思う。

いや、とりあえず、目の前のプレゼンをがんばります。

というわけで、
今日は、東京は、風雨がひどかったですね。
読んでくださった方、ありがとうございます!

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