演じれば何とかなる
世の中が大変なことになっていて、
こんなことを言うと語弊があるかもしれないのだが、
個人的にちょっと助かっていることがある。
それは、飲み会を断らなくていいことだ。
もう少し正確にいうと、立場的には参加した方がいい雰囲気の飲み会に、
いちおう最後の30分だけ顔を出したり出さなかったり、
印象が悪くならないように断る理由や言うタイミングを考えたり、
面倒くさいけど仕方なく参加するといったストレスがなくなったことだ。
大人数での飲み会がそもそも開催されないため、
こういったストレスがなくて本当に助かっている。
でも、飲みに行くのが嫌いなわけではない。
打ち上げなどで少人数で飲んだりすることは好きだし、
じっくり話せるサシ飲みや3人くらいの飲みは全然問題ない。
とはいえ付き合いのいいタイプでは決してないのだが。
大人数の飲み会が苦手なのだ。
正直にいうと、社員全員で忘年会とか、社員旅行で飲み会とか、
何が楽しいのかさっぱりわからない。
いまでこそまあ、部長という立場もあるので
そういうのも必要だろうということも理解はできるのだが。
新入社員のときには、泊まりで行く社員旅行が嫌すぎて、
わざわざ自分の車で宿泊先の温泉まで行き、
乾杯から15分だけ顔を出してしれっと帰ったこともある。
そのくらい、若い頃は大勢の飲み会が嫌いだった。
この業界にいるとさまざまな団体のパーティーなどもあるが、
基本的に、ひとりで黙々と料理を食べているか、
一部の親しい人たちと固まって時間が過ぎるのを待っている。
いちばん困るのが、自分が親しい人と、そうでもない人の3人で話していて、
突然親しい人が抜けて、そうでもない人と2人きりになった時だ。
当たり障りのない会話を何となく続け、耐えられなくなった方が
相手のほんの少しの隙をついて去っていくあの気まずさ。わかるだろうか。
いつも時間が経つのが遅すぎて、「宴もたけなわではございますが」という声が神の声に聞こえる。
もちろん参加したらしたでそれなりに楽しんではいるのだが、
そういう場で世間話をするのがどうにも苦手なのだ。
そんな僕が、3年間だけ100人近くの飲み会で先頭に立っていたことがある。
CCN(コピーライターズクラブ名古屋)の委員長をしていた時だ。
ひとりで前に立ち、大声で乾杯の音頭をとり、
楽しく飲もうぜなんてみんなに声をかけ、ジャンケン大会なんかして盛り上げたり、
さあ二次会、三次会に行くぞとみんなを引き連れて歩いていた。
僕がこんなことをするなんて、
僕のまわりにいる人たちには全く想像できないはずである。
絶対に別人の話だと思うだろう。
そもそもプライベートでも会社でも、
飲み会の幹事をやったことすら一度もないのだ。
それでも何とかやれたのは、委員長という役柄を演じていたからだと思う。
自ら出ていくことはあまりないが、
何か大義名分さえあれば、人前に立つのは平気な方である。
プレゼンは当然のこと、急なスピーチとかを頼まれても全然問題ない。
学生の頃はバンドで歌っていたので、ステージの上で演じるのは得意だった。
そもそも素の自分でステージになんか上がれない。
普段は全然ロックな雰囲気なんかないのに、いきなりマイクスタンドを破壊してみたり、
ステージを走りまわってジャンプしたり、イントレ登ったり、シャウトしたりしたのも、
いま思えばそういう自分を演じていただけだった気がする。
その場を楽しんでもらえるように、相手に求められる自分を演じることは、
きっと誰にでもあることだと思う。
立場が人を変えるというのも、立場上必要な人柄を演じているうちに、
そっちが身に染み付いていくからかもしれない。
でも、いざ演じる必要がなくなれば、もとに戻る。
ひっそりと誰にも気づかれないように、その場にいるだけである。
本来の僕は、ひとりでいるのが一番好きな物静かな男なのだ。
だから昔CCNに来てくれていた人たちから、
最近は森さんが別人になった、などとたまに言われるのだが、
あの時が別人だっただけである。
なんか騙していたようで申し訳ないが、
みんなを引っ張る委員長という役柄を必死に演じていたのだ。
・・・・・・・・・・・。
なんでこんな誰のためにもならない話を、こんなところでしているのだろうか。
着地が見えなくなったので、この辺で終わることにしよう。
今回のコラムは、何だか昔の話ばかりになってしまった。
巽から頼まれた時、せっかくだからいま思っていることを書こうかなと、
「広告という名のゴミたち」、「デジタルの闇と病」、
「何もできないゼネラリスト」、「管理職は雑用係」、「カゴの中の子会社」
といったテーマで考えていたのだが、いろいろと問題になりそうだったのでやめておいた。
僕もいまそれなりに立場があり、守るものもあるのだ。
まあでも、前述したように、飲みに行くのが嫌いなわけではない。
ここでできなかった話は、そのうちビールでも飲みながら誰かに話すだろう。
もし聞きたい人がいたら誘ってください。少人数でひっそりと。
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一週間読んでいただき、ありがとうございました。
次のバトンは、今年新人賞を受賞された山際良子さんにお渡しします。
いまから14年前。2006年にOCC新人賞を受賞したときのこと。
誰も知り合いがいない大阪の授賞式。コラムで書いた通りいちばん苦手なシチュエーション。
心細い会場の片隅で、同じくアウェイ感を背負った数人で固まって、
ひっそりと話をしていた中に山際さんもいました。
初めての授賞式だったからか、話せる人がいるだけでありがたく、
ほっとしたことをよく覚えていて。
それ以来、会ったことも連絡をとったこともなかったんですが、
今年のTCC新人賞で名前を見つけた時に何だかすごく嬉しかったので、
思い切って連絡してみたら快く引き受けていただきました。
山際さん、突然でびっくりしたと思いますが、引き受けていただいてありがとうございます。
来週のコラム、よろしくお願いします!
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