リレーコラムについて

犬は自分で目ヤニ取れないから詰んでるやんと思いきや

田中雅之

シェリーという犬を飼っている。娘がディズニーのキャラクターから取って名付けたらしい。キャバリアという種類の中型犬で、ぱっちりおめめが特徴だ。こないだ10歳の誕生日を迎え、エアーズロックのような肉塊を茹でてロウソクがわりにササミスティックを突き刺したバースデーケーキならぬバースデーミートでお祝いした。1月2日という正月真っ只中の日に生まれてしまったものだから毎年忘れられがちなんだけど、今年はしっかりお祝いしてあげた。10歳の節目だし。でも犬にとってハッピーバースデーを歌われる時間は長すぎる「待て」に過ぎず、お祝いというより罰ゲームだったかもしれない。よだれを垂らして身悶えしながら歌い終わるのを待って、光の速さでモシャモシャと平らげてしまった。

このシェリー、ぱっちりおめめが特徴と書いたけれどそのぶんめっちゃ目ヤニが溜まりやすい。すごくよく寝るせいもあるかもしれない。ちょっと気を抜いたら目元に白いフニャフニャしたものがまとわりついている(犬バージョンの目ヤニは人間みたいに黄色くない)。時には眼球を覆うように目ヤニが張り付いていることもあって、この子の視界は今どうなってんのやろなと思うレベルのことも。なのでちょっと可愛い表情をした時なんかにカメラを向けてパシャリしても、よく見たら目ヤニついてるやん!なんてことがしょっちゅう。だから朝起きた時、散歩から帰った時、昼寝から目覚めた時、その他ちょこちょこ…と、1日に何度も目ヤニを取ってあげている。ほんとに何度も何度も。ちょっと長めに家を空けたりしようもんなら、バリバリに乾いて剥がすと痛がる時もある。

そこでずっと疑問に思っていたことがある。こいつ・・・放っといたらどうなるんやろ?と。僕や家族の誰かに取ってもらわない限りは、目ヤニが溜まりに溜まって目を開けられなくなったりするんやろかと。バリバリに固まった目ヤニで目の周りが氷山みたいになってしまうんやろかと。ひとつ確かなことは、自力で目ヤニを取るのは無理ゲーらしいということだ。目の充血がひどくて病院に連れて行った時に「目を擦ろうとして爪で傷つけちゃったのかもですねえ」なんて言われたこともあるから、前脚で器用に目ヤニを取り除くという芸当は高難度であることが推察できる。広い犬界には上手にやってのける個体もいるのかもしれないけど、シェリーにはできないらしい。えっ、じゃあどうすんの。完全に人頼みやん。野良犬はどうしてるん。そんな目ヤニだらけの野良犬を見た記憶ないけど。なんてぼんやり思いながらも、またぼんやり忘れて、そういうもんかと割り切って目ヤニを取ってあげながら過ごしてきた。

だけど2匹目の飼い犬アランがうちにやって来てから、その疑問が解けることになる。アランは雄の真っ白なチワワで、かわいい見た目と裏腹にとってもヤンチャな奴だった。アランドロンみたいにイケメンだったからアランと名付けられたくせに、ハリウッドのアクション俳優みたいだった。自分より二回りも大きいシェリーにも果敢にちょっかいをかけまくっては、鬱陶しそうにいなされて。先住犬のプライドvsルーキーの挑発という激しいバトルが繰り返される日々が最初は続いた。だけど面白いもので、割とすぐに2匹は仲良くなった。ちょっと目を離すと寄り添って昼寝していたり。外出する時は並んで窓から僕を見送ってくれたり。犬同士で通じ合うものってあるんだなあと、当たり前なことなんだろうけど妙に感心した記憶がある。

そんなアランが、しょっちゅうシェリーの顔を舐めていることに気づいた。小さな舌でペロペロと。何度も何度も、顔面をペロペロと。不思議とシェリーは嫌がらない。いつもはアランがちょっかいを出すと怒るのに。尻尾に噛みついたり、しつこく追いかけ回してきたり。ところが執拗に顔を舐められてもまったく怒らない。それどころかちょっと気持ちよさそうにしている。そこでハッとした。これは、顔を舐めてるんじゃなくて、目を舐めてるんだ!ちょっと電流が走った。脳内にガラガッシャーーン!って音がして、ネガポジ反転して、世界の謎が少し解けたような気がした。

そうだったのか。犬は、目ヤニが溜まったら仲間の犬が舐めて掃除してくれるんだと理解した。いろいろなことが一気に結びつく。進撃の巨人の終盤みたいに次々と伏線が回収されていく。たしかに、そういえばアランを迎えてからシェリーの目ヤニを掃除する機会が減っていた。あれはアラン、君のおかげやったんか!たしかに、どっちか片方がお腹を壊したら、ほぼ同時にもう一方も同じ症状になっていた。そりゃ伝染るわ、目ヤニなんか舐めとったら!そうやったんか・・・そうやったんか。

大袈裟かもしれないけれど、生き物は自分だけじゃ生きていけないようにできてるんやなあと感動してしまった。大袈裟だけど。一人じゃ生きていけないんだよな、僕たちも、君たちも。そんなこんなで、シェリーのぱっちりおめめはアランのおかげでいつも目ヤニフリーで美しく保たれることになりました。めでたしめでたし。

…ときれいに締めたいところだった。でも色々あって今うちにアランはいない(ちゃんと元気に生きてはいるのでご心配なく)。すなわちまた何度も何度もシェリーの目ヤニ掃除をしてあげなきゃな毎日を送っている。まあ安心してくれよシェリー。僕は舐めたりしないから、僕がお腹を壊しても伝染ることはないからね。

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来週は札幌の鈴木拓磨くんにお願いしました。東京から札幌へ。なかなか遠距離でのバトンリレーなので、ちゃんと届きますように。
(しかし彼の名前を聞くと、恋人が食べたくなったり、男山が飲みたくなる…)

NO
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5847 2025.01.24 田中雅之 犬は自分で目ヤニ取れないから詰んでるやんと思いきや
5846 2025.01.20 田中雅之 たなかま
5845 2025.01.17 石山寛樹 わすれない男
5844 2025.01.16 石山寛樹 でかい男
5843 2025.01.15 石山寛樹 みえる女
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