リレーコラムについて

真夜中のパノラマ

尾崎敬久

あれは仕事の打ち上げだったか。
はたまた誰かの送別会だったろうか。
とにかくよく飲んだ。
よく飲んだときというのは、
なぜああも尿意が続けざまに襲ってくるのだろう。
帰り際、ちゃんと店で用を足す。
地下鉄の駅で、またまた用を足す。
なのに家に着く頃には、我慢の限界である。

終電での帰宅、
家族の寝静まった家で最初に行うアクション「放尿」を遂行するべく、
僕は家路を急ぐ。いやもう家だから、トイレ路を急ぐ。

勝手知ったる我が家のトイレだ。
目をつぶっていたってできる。

切迫した膀胱の筋肉を緩め、
なんならその筋肉にわざと力を込め、
流水の放物線を直線へと変える。

凄まじい勢いだ。

ん?

凄まじい勢いだから、なのか?

今日は跳ねる。
すごく跳ねる。
しぶきが過去に感じたことのないレベルで跳ね返ってくる。

膀胱の筋肉を緩め、直線から放物線へ。
便器へのソフトランディングを試みても、
しぶきは収まらない。

13行前に遡ってほしいのだが、
僕は本当に目をつぶって用を足していた。

そして当たり前だが、この事態に目を開けた。

飛び込んできた景色は、
ふかふかタオル地の便座カバーに自分の全尿を降り注いでいる大パノラマ、
いや、用は小の方だから小パノラマと言うべきか。
(注:便座カバーは、U型やO型の座る部分ではなく、便器の蓋のほう)

ふかふかタオル地の便座カバーが水分吸収のキャパシティを超え、
バッシャバッシャと音を立てて跳ね返り、
イグアスの滝のごとく全方向に流れ出している。

圧巻だ。
けれど地獄だ。

反射的に蓋を開けた。
本来通りの便器に戻し、
本来通りに用を足すためだ。

しかし勢いよく開けられた蓋は、
イグアスの滝(全方向)からヴィクトリアの滝(一方向)へと絶景ぶりを変え、
トイレ奥に流れ落ちるだけだった。

僕の水源は枯れ、同時に酔いも覚めた。

この日を境に僕は「座りションマン」になった。

今では居酒屋でも座ってするくらいだ。
(注:トイレ清掃が行き渡っていない場合を除く)

果たして僕は、少しは大人になれただろうか。

電通中部支社の尾崎敬久です。今週よろしくお願いします。
リレーコラム、約10年ぶりです。
内容の知的レベルが前回とほぼほぼ変わっておらず、泣きそうです。

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