話、つくってませんから。(ジミー・ペイジの巻)
若手の頃、プロデューサーやCD、営業など、業界の大人の方々に、
本当によく飲みに連れて行ってもらっていた。
みなさん自分の行きつけの店をいくつも持っており、
いわゆる「マスター、いつもの。」的な関係が成立している。
実にかっこよく、大人に見えた。
自分もそのぐらいの歳になれば自然とそういう店ができるんだろうなと思っていた。
だが、お言葉に甘えてばかりいたせいで、ふと気づくと30代半ば、
後輩を引き連れて「いつもの」などといえる店など持っていないことに気づく。
これは大人として、いかがなものか。。。
とばかりに、そのころから「大人計画」と題して自分の行きつけや隠れ家をつくり始めた。
それなりに授業料はかかり、結構なお金と、結構な酒量が夜の街に消えていったが、
結果、六本木界隈を中心に寝ぐらがいくつかできた。
その日も、そのうちのひとつの店にいた。
とっくに終電の時間は過ぎている。おそらく2軒目か3軒目。
じゃあ、そろそろ帰るわと馴染みの店の、馴染みの客に別れを告げて店を出た。
タクシーを拾おうと防衛庁(今のミッドタウン)の辺りから六本木通りに向かって進んで行く。
すると前から二人組の外国人(西洋人)が歩いて来るのが目に入った。
そのうちの一人はやけに手が長く、そのやり場に困っているかのように
ダラリダラリと両手をぶら下げながら向かってくる。
フフッ、変な体型。まるで、ノッポさんみたいだな、と。
ノッポさんといえばジミー・ペイジ(僕の中ではそういう位置づけになっている)。
こいつ、あだ名が「ペイジ」だったりするかもな、ハハハ、顔も似てるじゃん。
マジ、似てる。
近づいて来れば来るほど似てくる。
スゲー、似てる。
すれ違う瞬間、あまりのそっくり加減に吹き出しそうになる。
いやあ、笑えるぐらい似てたなあ。
ハハハ、ハハ、ハ..。
えっ!!!!
本人???!
僕はきびすを返した。
もう、その男たちは10mぐらい先を歩いていた。
僕は追いかけた。
ジミー・ペイジ = レッド・ツェッペリン、それは僕にとって神を意味する。
5本の指、いや、日によっては3本の指、体調がよければ2本の指に入るほどの
中学時代からのフェイバリット・バンド。
走った。
そして彼らを1mほど追い越し、振り返り、確認。
どう見ても、本物だ!
そして、すかさず、その男にこう尋ねた。
「エクスキューズ・ミー! アー・ユー・ジミー・ペイジ?」
とっさに出た英語は、失礼なことに敬称略。
すると、その男はこう言った。
「May be.」
うわー、なんて粋な返事なんだ。「だぶん」だって!!!
もう、その答えで確信した。
「オー・マイ・ガー!!! アイム・ユア・ファン!!
シンス..、シンス..3イヤーズ・オールド!」
少し、盛った。
「シェイク・ハンド・プリーズ!」
舞い上がる僕に、彼は躊躇なくにこやかに手を差し伸べてくれた。
「アンド・レフト・ハンド・ツー!」
せっかくなので左手にも握手してもらった。
なにせ彼の左手が紡ぎ出すフレーズを日夜コピーしていたのだから。
「アイム・ソー・グラッド!」「アイム・ソー・ハピー!」
知っている限りの中学生英語を繰り出しながら、その喜びを伝えた。
もうひとりの男がタクシーをつかまえた。
彼もそのタクシーに乗り込んだ。
すると、わざわざ窓を開け、こちらに手を振ってくれた。
ああ、天国への階段をのぼっているかのような気分。。。
次の日、僕はジミー・ペイジが契約しているレコード会社の友人に連絡をとった。
そして、彼が来日しているか確認してみた。
すると、返って来た答えは、
「関さん、情報早いねえ。どこで知ったの?」
ほんとにあった話です。つくってませんから。
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