輝きながら愛し 笑いながら死のう
オペラのことを書きはじめると止まらなくなって
これは昨日のコラムの続編です。
「輝きながら愛し 笑いながら死のう」
この歌詞はワーグナーのオペラ「ジークフリート」の最後に出てきます。
原文→leuchtende Liebe, lachender Tod!
英訳→Come shining love! Come jubilant death!
そして、オペラ対訳というオペラの青空文庫のようなサイトの翻訳が
「輝きながら愛し 笑いながら死のう」です。名訳と思います。
ジークフリートは北欧神話の英雄ですが、
ワーグナーはこれを神々の王ヴォータンと人間の女から生まれた兄妹が交わって
生まれた息子という設定にしています。
近親相姦の果てに生まれた英雄は、ヴォータンにとっては孫にあたります。
ジークフリートは自分で不敗の剣ノートゥングを鍛え、
財宝を守る龍を退治しに旅立ちます。
推定年齢17歳?世間知らずで心は森の木のように真っ直ぐ。
いまだに恐れというものを知りません。愛も知りません。
しかし、旅の途中で人恋しい気持ちにとらわれます。
母を慕う気持ち。女性を慕う気持ち。
そして、炎に包まれた岩山に眠るブリュンヒルデの噂を聞いて、
出かけていきます。(龍はさっさと殺してしまいました)
さて、炎の岩山に眠るブリュンヒルデはヴォータンの娘です。
もともとはヴォータンの娘たちで編成されたワルキューレ隊の隊長。
戦死した英雄の魂をヴォータンのもとへ連れてくるのが仕事です。
ブリュンヒルデはジークムントとジークリンデの兄妹の駆け落ち事件のときに
ジークリンデを助けたのが原因でヴォータンの怒りを買い
炎の岩山に眠り続ける罰を与えられていました。
ブリュンヒルデを目覚めさせられるのは真の英雄だけ。
さあ、ジークフリートの登場です。
とはいえ、しかし….
登場するのはいいですが、ブリュンヒルデはジークフリートの叔母です。
そこんとこと忘れるんじゃないぞ、ジーク!
しかし、ジークフリートはまったく気にしませんでした。
人生で初めて人間の女を見たわけですから、求愛しまくりです。
ブリュンヒルデも伯母と甥の関係は気にしませんが、
自分たちが交わることは死へ向かって進むことだと理解しています。
ブリュンヒルデはなんだかんだと理屈をつけて求愛をかわそうとしますが、
脳内が三歳児のジークフリートにそんな理屈や世界観がわかるはずもなく、
ついには押し切られ、
ブリュンヒルデはジークフリートを受け入れてしまいます。
「輝きながら愛し 笑いながら死のう」という歌詞はそのときの歌です。
自分の運命をもう悟っています。
「ジークフリート」はワーグナーの「ニーベルングの指輪」四部作の三作めの第三幕。
1時間半近い上演時間の半分くらいがジークフリートの求愛と
ブリュンヒルデの拒絶の歌です。
ああ、オペラ歌手ってすごい。40分も歌い続けるなんてすごい。
しかもジークフリートを歌う歌手は一幕と二幕の2時間半を歌い、
三幕の前半を歌い続けてヘロヘロでやっと炎の岩山に辿り着き、
ここしか出番がない元気いっぱいのブリュンヒルデの相手をしながら
最後の40分歌います。これはもう命がけです。
「輝きながら愛し 笑いながら死のう」
ジークフリートとブリュンヒルデの愛の行方は死と滅亡。
私はこの歌詞が大好きですが、
この歌詞を思い浮かべるたびにジークフリートを歌う歌手の
疲労困憊ぶりを見物したがる自分も思い出します。
私って、ちょっと嫌なやつ???
ジークフリート動画
(ジークフリートが炎の岩山にたどり着くのは冒頭から3時間10分くらい)
https://ok.ru/video/1217752730229
オペラ対訳「ジークフリート」はこちら
https://w.atwiki.jp/oper/pages/194.html
5586 | 2023.09.15 | ブーブー!ブーイングを怖がるな! |
5585 | 2023.09.14 | 出産直後のブリュンヒルデ |
5584 | 2023.09.13 | シチリアの女は立ちかたが違う |
5583 | 2023.09.12 | 輝きながら愛し 笑いながら死のう |
5582 | 2023.09.11 | パンツを脱ぐジークリンデ |