量テレ
書くことがもう何一つないので、学生のころに実験してた量子テレポーテーションとかの話をします。
まず原子やら光子やらの「量子」というものは「量子状態」というもので表現できます。原子がどこにいるかとか、光子がどっち向きに回ってるかとか、そういった物理量を含む量子の状態が「量子状態」です。人で言う体重とか身長とか、好きな音楽の種類は、とかそういう感じです。
量子状態が同じ量子であっても、理論上まったく同じ観測をしたとしても、違った物理量が得られることが多々あります。これは量子の世界では物理量が確率分布に従うからです。観測するまで原子がどこにいるかはわからず、観測するたびに原子が違う場所にいる可能性があるというわけです。光子はフィフティーフィフティーで右回りで左回りの状態になれるんですね。ネコが生きてんだか死んでんだか的なあれです。
ただこれはコペンハーゲン解釈と呼ばれてる単なる解釈の説明で、そもそもこの解釈が合ってるか合ってないかは人間には原理的にわからずです。計算ができて役に立つから採用してるだけです。道具主義で正解は初めからありません。無いというか知りようがないんですね、人間には。ですので全然信じないでも大丈夫です。ネコは生きてるに決まってんだろと叫んでOKです。自分の「普通」を信じてください。
それで量子テレポーテーションというのは、量子状態を収縮させないまま、つまり観測によってたとえば偏光の向きを確定させないまま、遠方に送る技術です。二郎でラーメン食べたらすごくおいしかったので写真を撮って自宅のPCに送って、自宅で二郎の材料とその写真をガーッとやると一気に二郎ができる感じです。すみませんこの例えだいぶ違います。でもなんとなくそういった雰囲気です。
エンタングルメント関係にある二つの量子を別地点に置いて、片方に演算した結果を他方に伝えることで量子テレポーテーションが行われます。エンタングルメント関係にある量子対というのは、双子のように同時に生まれ、片方になんかするともう一方が影響を受ける関係です。どんなに離れていても、です。このエンタングルメントがSFで面白くて、これにみんなやられます。AとBがエンタングルしていたら、どれだけ離れていてもお互いに影響を受けます。地球上のAになんかすると、宇宙のはじっこにあるBが直ちに影響を受けるんです。やばすぎですよね。
で、アインシュタインがそんなことあるわけねえだろつってぶちぎれました。現実はマンガじゃねえんだよと言わんばかりに、1935年にポドルスキーとローゼンと共著で「エンタングルメントはここが矛盾してるよ、君たちどうすんの論文」を発表しました。この矛盾は名前の頭文字をとってEPR paradoxと呼ばれています。現実はマンガではなくなりました。
ところが1982年にベルが「いや、EPRパラドックスは矛盾じゃないよ論文」を出して、宇宙ががらっと変わってしまいました。アインシュタイン先生、閉口。宇宙はやっぱやばかったんです。
それでしばらくはみんな「宇宙ってやばくて面白いですね」となってたんですが、1994年にショアが「エンタングルメントをつかって作れる量子コンピュータで異常に早く因数分解をするアルゴリズム論文」を出して、今度は世界ががらっと変わってしまいました。面白いとか言ってられなくなりました。というのも現在の暗号通信は因数分解の難解さをよりどころにして成り立っているからです。量子コンピュータの完全な完成とともに人間社会は崩壊してしまうのです。危機であります。今ここです。
そして量子テレポーテーションは量子コンピュータのプロトコルの一つになっていると同時に、原理的に盗聴が不可能な通信を確立します。情報がテレポートするので、盗聴できないんですね。正確には、盗聴できるんですが、無価値な情報しか盗聴できないです。
つまり量子コンピュータと量子テレポーテーションは、物理法則が保証する、情報における最強の矛であり盾なのです。したがって研究開発には、一部の国ではとんでもない予算がつきます。作るのに成功したら人間社会の覇者になれますから。すごいですね。
あといま思ったんですけど、祖母はあのときのオセロ勝負、わざと勝ったのかもしれませんね。今更気づきました。