リレーコラムについて

震えながら胸を張る

中村直史

いつか地元に帰りたかった。
それが主な独立の理由でしたが、
「競合プレゼンをやりたくない」も理由のひとつでした。
あの、わーっと根つめてみんなでがんばって、
勝ったらうれしくて。
みたいなプロセスはむしろ好きでした。

ただ、選ばれた一社以外、
あの何週間も鬼のようにがんばった
時間が無駄になるのは一体なんなんだ、と。
これまでのすべての負けたチームが費やした
膨大な労力と時間と捨てたアイデアの数々を
他のことに使っていたら。
日本の失われた30年も、
少しは失われなかったんじゃないか、、、
とさえ妄想してしまいます。

地方では大きな仕事といえば行政の仕事で、
それらは基本全部競合プレゼンです。
オリエンシートはフォーマットが大抵同じで、
最後に「ただしコンペ参加にかかる費用は参加社の負担とする」
みたいな感じで書かれています。
いつも。当たり前のように。

100歩ゆずって無料なのはよしとして、
なんでそんな命令みたいな言い方なのか。

「なんとか我々の自治体を良くアピールしたいんです。
そのためには、広くいろんな人から案を募りたい。
みんなを選ぶことはできないけれど、
みんなで競い合うことがお互いを高めて、
結果、みんなが生きていくこの自治体の
未来を良くすることになると信じます。
だから、どうか力を貸してください。
そして申し訳ないんですが、
コンペの費用負担は各社にお願いします。
各社の今後の糧になるように、
選ばれた案は何が良かったのか、
今後どんな点をみんなで気をつけていきたか、
きちんと開示して、みなさんにお伝えします。
どうかどうか、よろしくお願いします」

まっとうな人ならば、せめて、そう伝えると思うんです。
でもそんな人間らしい言葉は聞こえてこない。

広く世の中から好かれるための広報活動なのに、
その入り口で、さっそく嫌われるような言葉づかいをして、どういうつもりなんだろう?

みたいなことがずーっと気になってました。

一生、競合プレゼンやりつづけるのかな?

組織にいる限り「競合プレゼンやりません」は言えない。
なら、自分で責任を背負える一人になるしかない。
とはいえ、一人になって、競合もやらずに仕事はあるのか?
という不安はつきまといます。
めちゃくちゃ迷いつつ、公言することにしました。
競合プレゼンは今後やりません。

親しかった先輩や後輩からの依頼を断る時がきつかったです。
自分が依頼者の立場だったら一度断られた人に
再度仕事を依頼するのはまれなので。
人間関係まで絶っている気になりました。

一方で、いろんな場所で、
自分が何を目指しているのか話すようにしました。
CMもキャッチコピーも僕よりうまい人はたくさんいるけど、
会社のみんなが意志を同じくしながら
何かを目指していくようなプロセスが好きなこと。
好きだから力が出るし、
あなたたち自身が「本当にこれが言いたかったんだ」に
たどり着くまでしつこくつきあいつづけられること。
自然、教育、福祉に関わることには
特に気合を入れて取り組みたいことなどを話してました。
そして、競合プレゼンは一切やらないこと。
全部、ほんとに思っていたことなので熱もこもります。

そしたら、たまにですけど、いました。
自分たちが困ってることはそこなので
力を貸してほしいという人が。
僕みたいなのに声をかけるのは変わった人だと思うんですが、
でも、広告代理店が相手にしないようなところにも、
どう伝えればいいのか
一生懸命悩んでいる人たちはいます。

もしかして今後もう仕事ないんじゃないかと思ってたので、
そういう人たちとの出会いは
ほんとにめちゃくちゃうれしいです。
そして競合をやらなくなってから
大きな仕事はなくなってしまったんですが
その代わり「この人たちは同志だ」と
思える人たちと出会えました。

人生において何が良くて
何が悪かったかやすやすと言えないし、
言いたくもないんですが、
でもぶるぶる震えながらイヤなものを捨てたら、
少なくとも真っ暗闇ではなかった。だれかがいた。

タイトルに書いた「震えながら胸を張る」は、
若い頃に読んだ岩崎俊一さんの
コラム(か何か)に書かれていたものです。
フリーのコピーライターとしての
心の持ちようを書いたもので、
うろ覚えなのですが、
たしか「ぶるぶる震えながら胸を張る」と
書かれてあったと思います(記憶違いだったらすみません)。

岩崎さんは本当にすばらしいコピーを次々と生み出していました。
そんな岩崎さんでも心の中では震えてるんだ。。。
とずっと印象に残っていました。

自分は一生その感覚を持たずに
生きるんだろうなと想像していましたが、
人生は不思議なもので、いま味わっています。
胸はあまり張れず、ぶるぶる震えてばかりですが。

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