コピーと脚本
来週から始る「夢みる葡萄」というドラマの原作は林真理子さん。
脚本を書くにあたってご挨拶がてら、食事をご一緒させていただいた。
以前に一度お会いしている。僕が新人賞を貰った年のTCCのパーティーだった。
林さんはまだ新進気鋭のコピーライターで、確か最初のエッセイ集を出版された直後だったと思う。
二十年近い時間が経って、こんどは脚本家と原作者としてお会いした。
不思議。
原作は林さんのお母上をモデルにした小説で、主に戦前の山梨や東京を舞台にしている。
だからこの夏は「戦前」にどっぷりと浸った。
資料を読み、写真を見て、その頃の空気や人の気配を想像し続けた。
このあとはオペラ関係の仕事をする。
新選組や近未来の芝居を書く。
みんなに代わって、ワープやタイムスリップをするような仕事だと思う。
空想の世界に旅をして、「こんな人がいたよ」「こんなことを喋ってたよ」と報告するような仕事。
敬愛する山口瞳さんがこんなことを書いていた。
小説家はヒマなほうがいい。忙しいみんなに代わって、人間や人生に大切なことを考える仕事なんだ・・。
思えば大先輩たちの名コピーは、そんなふうに書かれている気がする。
京都の女将さんのようにはんなりと、あるいは、下町の呑み屋の大将のように溌剌と、忘れていたものや見落としていたものに気づかせてくれる。
そんな言葉が書きたい。
もし、そんな言葉が書けるなら、コピーも脚本も、僕にとっては同じように、素敵な仕事だ。