人生は飛べない、私は飛ばない。
岩崎俊一
ゴルフには実に人間くさい泣き笑いがある、などといまさら僕が言うまでもあるまい。僕の友人を観察していて、思わず書いてしまった一文である。
私は飛ばない。
どんな最新兵器も、私を変えることはなかった。「人生でいちばん飛ぶ日がやって来る」だの、「あなたの想像より20ヤード飛んでいる」だの、「ゴルフは飛ぶことを祝福するスポーツだ」などと広告は威勢よくあおってくれるけど、そんなおだてに乗るようなタマではない。
クラブがステンレスになろうが、カーボンになろうが、チタンになろうが、それがどうしたと言わんばかりに、飛距離は少しも変らない。
知人が言った。
「君の生き方は、科学の進歩を否定しているね」
コンペで、時折、ひどく飛ばす女性と一緒に回ることがあるが、顔では笑っていても、あれは落ちこむ。彼女がおとなしくレディースティから打ってくれれば、まだいい。こっちは「白」から打っているのだから、彼女の第一打がどれほど私より飛んでいようと、そんなに傷つかない。
問題は、私も白から打ちます、と涼しい顔で言う女性。これは困る。気持のごまかしようがない。慰めようがない。来るホール来るホール、第二打を誰よりも先に打たなければいけない屈辱。この場合も法則があって、女性が美人であればあるほど、胸の痛みが大きいのは、なぜだろう。
仲間にヤな奴がいて、彼はいわゆる飛ばし屋なのだが、悪いことに、ある時期、私と彼は同じドライバーを使っていた。忘れもしない、キャロウェイの「ビックバーサ」である。あるコンペで一緒にラウンドすることがあった。豪快に飛ばす彼のあとで打つ私の打球は、いやが上にも目立ってしまう。17番ホールのティショットのあと、彼が言った言葉を、たぶん私は生涯忘れないだろう。
「ねえ、僕のドライバーはビックバーサだが、君のはピンクパーサだね」
昔々、私は運動の嫌いな子どもだった。体育の時間を一度も楽しいと思ったことはないし、運動会のない国に行きたかったし、プールではしゃぐクラスメートが信じられなかった。逆上がりはできないし、跳び箱は馬乗りになるし、ドッチボールはサンドバック状態の子どもだった。からだを使って人と競いあうなどという「愚挙」をすることになろうとは、夢にも思わなかった。しかも自らススんで。しかも喜々として。
私は飛ばない。悪いか!
※文の中のヤな奴は僕でした。ごめんね。
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