リレーコラムについて

バンビの瞳

鶴田茂高

あけましておめでとうございます。

2004年がみなさんにとって素晴らしい1年でありますように。

さてさて今週1週間は、誠に勝手ながら、
これまで僕が出逢った愛しき人々を紹介したいと思います。

【Chapter 1  バンビ】

彼にはじめて会ったのは、僕がフリーのコピーライターとして、
ちょうど「コピー」にもなれて、一人前にギャラも得られるようになり、
ちょっとペシミスティックに世の中をナメまくっていた頃でしたね。

その頃、フリーの有名でもないコピーライターに求められることって、
代理店CRの趣味やクライアントのトーンにあった「あたりさわりのない美辞麗句」。
(とはいえ、意地もあったので、テクニックとしてのネガティブなアプローチや
言葉遊びなど、ちゃんと「尖ってるよ」ってポーズも見せながら…)

だから、ADである彼と仕事をした時も、
最初はいわゆる「クライアント1発OK」なレベルのモノばかり。
年下の彼は遠慮もあってか、僕からファックスされるコピー原稿を
仕方なくそのまま原稿にまとめていました。

でもある日、ある仕事で、
彼はバンビのような瞳を潤ませて、
ちょっと悲しいような、おびえたような表情で
「あのう〜鶴田さん、もっと面白いこと、考えませんか?」
ちょっとムカつきました。と同時に、脳天カチ割られるような衝撃。
生意気だけどこいつはちゃんとコピーを読んでくれる。
原稿全体を俯瞰で見ようとしている。
何よりも広告に対して純粋で、真摯で、非常にどん欲だと。
それに比べて、俺って…いい加減じゃんって。腑抜けじゃんって。
マジでちょっと恥ずかしくなりました。

「じゃぁさぁ、ビジュアルももっと飛ばさないとね」
久しぶりにまともにADとCの戦いができ、なんだか救われた気になりました。

それから彼とは、いっぱい語り合い、遊びまくり、喧嘩もし、
自分たちが本当にいいと思うモノを作るという姿勢を貫くようになり、
結果、業界的な評価を受けたり、クライアントからも信頼を得られたり。
すばらしいギラギラした時間を過ごしました。

思えばほんのわずかなひとときだったけど、
あの時、広告のことばっかりの時間を彼と過ごせたからこそ、
コピーライターとしての立ち位置を確認でき、
いまだにこの仕事を続けているんだと思います。

残念ながらいまは一緒にモノを考える機会はありませんが、
アイディアに悩み、疲れたりすると、よく彼を思い出します。
「あいつなら、こんなとき、どんな風に考えるだろうか」と。

そして僕はいまでもあの頃のギラギラした気持ちのままで
広告に臨んでいるだろうかと、ひとり反省したりします。

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