「キャン鳴峠」
西畑幸一郎
福岡には「犬鳴峠」という、聞くからに恐ろしそうな峠があります。
かなり有名なのでご存知の方もおありかと思いますが、
出るんです。本当に。
色々とお話があるのですが、ここでは僕が体験した(錯覚?)したお話を書かせていただきます。
高一の夏、僕らは「犬鳴峠」の事を「キャン鳴峠」と言って親しんでいて
メンツがそろえばツーリング&肝試しを敢行しに良く通っていました。
なかでも旧道のトンネルが一番怖く(心霊体験のメッカみたいな)
そのトンネルの中間地点まで原チャリで行って原チャリを置き去り、その鍵を持ってトンネル
の中を自分の足で走って帰ってくる、次の人はその鍵を持って原チャリが置いてある地点まで
走って行き、原チャリをとって戻ってくると言う、とてもシンプルでとても恐ろしい
「原チャリ・リレー」と言うゲームに興じていました。
本当に真っ暗で岩肌むき出し、走っていると風の音が女の人の悲鳴のように聞こえてくる
恐ろしい所です。今まで好調だったエンジンがトンネルの中ではかかり難かったり
かからなくなる事もしばしばです。かからない時は原チャリを押して走らなければなりません。
精神的にも肉体的にもタフさが要求されるゲームでした。
その夜も泣き笑い者、続出の楽しい夜で、とりあえずリレーが一巡し疲れた僕らは
ふもとのコンビニで腹ごしらえでもしようという事になり、それぞれの単車に乗り下山していました。
僕はその夜、満徳君の後ろに乗せてもらっていて、下り始めて4〜5分ほど経った頃でしょうか
80キロくらいのスピードで走る僕らの単車の横を黒い猫が追いかけてくるのです。
すごい泣き声で!ものすごく怒ってます!単車のエグゾースト越しにしっかりと聞こえるのです。
僕も満徳も怖くてたまりません・・・少し減速したその時、猫が前輪に巻き込まれるように
飛び込んできました。轢いたという感触があったので可哀想になり、何度も道を後戻ったり
ヘッドライトで周りの茂みの中を照らしたりして、丹念に猫の亡骸を捜したのですが、結局
見つける事ができません。ふもとのコンビニにたどり着き単車を調べてみても何の痕跡も
ありません、結局、僕らの錯覚と言う事でその場は落ち着き地元に帰る事になりました。
解散後、満徳の家の近く、単車をいつも置いている駐輪所に戻り、単車の横に座って2人
で缶コーヒー片手に一息ついていると、満徳が僕につぶやきました。
「前輪に猫の毛と血みたいのが付いとう・・・・・・・・・。」
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