リレーコラムについて

安藤寛志

打ち合わせまでには少し時間があった。
待合わせ場所の近くのビルで、小さな展覧会が開かれていた。
盲学校に通う生徒たちの美術展だった。
何気なく立ち寄った会場の、
ある作品の前で、ぼくは固まった。
異形の黒い塊。
タイトルには犬とあった。
粘土の表面には無数の指紋の跡があった。
生きているようなその窪みはヌラヌラと光っていた。
果てしない闇の底を2本の腕で歩き回り、
つかまえたに違いない、確かな犬といういのち。
繰り返し触れたであろう犬のぬくもり。
怯えたようにヒクヒクと動く腹。
湿った匂い。
せつない重み。
そのすべてを黒い塊は伝えていた。
犬という言葉を拒絶する犬。
犬という言葉が呈示する貧弱な犬のイメージをあざ笑うように
その物体は存在していた。
1億年かけたって、言葉に世界はつかまえられない。

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