とんかつ屋の話
コピーライターになりたての頃、その頃勤めていた会社の近くに、
行列のできるとんかつ屋さんがありました。
そこのメニューは、ヒレとロースの2つだけ。
でもその2つが、涙がでるほど美味しいのです。
私は思いました。これがプロというものだと。
時間をかけて並んでも食べたいようなとんかつを出せること。
衣の揚げ方、肉のジューシーさ、深みのあるソース。
そのひとつひとつに感動があり、ひと皿ひと皿の隅々まで気づかいが
行き渡っていて、キャベツ一切れもきちんと美味しい。
こんな仕事を、自分はできているだろうか。
コピーライターになってまだ1年たっていない頃でした。
仕事をして生きるからには、いつかこういうプロになりたいなあと。
今年10年目になりますが、最近よくそのことを思い出します。
いまの自分には、ああいう仕事ができているだろうか。
経験を重ねるにつけ、ヒレとロースだけを出すような仕事の仕方が
いかに難しいかがわかってきます。
お客さんは鶏の唐揚げやコロッケが欲しいというかもしれないし、
デザートにペロペロキャンディーはないのかというかもしれないし、
それどころかトッピングに生クリームやココナツソースを
要求されるかもしれません。
そういうときに、注文通りのものを差し出すのがプロなのか、
それともできないとつっぱねるのがプロなのか。
困るのは、生クリームをトッピングしても美味しいとんかつを
考えるのがプロだろう、といわれたりすること。
そしてさらに困るのは、それがたまにできてしまったりすることです。
うん、これはこれでアリだったね〜みたいな。
そうなると、もう自分でもなにが正解なのか、わからなくなるわけですね。
できればあのとんかつ屋さんのように、
感動を与えるような仕事をしていきたいと思いつつも、
お客さんのお腹を満たせたかさえわからず終わることも多いわけです。
難しいなあ、この仕事は。
(といって結論を出さずに終わろうかな。わからないし)
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