二発目「疵」
自分の頭の左側頭部には、三日月ハゲがある。
見ようによっては、美しい上弦の月のようでもある。
ハゲと言ってしまえば、まあ、それまでなのだけれど、
頭部に疵痕ができると、
その部分からは、ほぼ毛髪が失われるので
ハゲと呼ばれてしまうかわいそうな疵でもあるんだな。
たとえば、臑に大きな疵があって、
そこから臑毛が生えてこなければ、
それをハゲと呼ぶかというと、
決してそうではないあたりに
頭部の疵痕の哀しみがあるのかもしれない。
で、よくよく自分のからだのあちゃこちゃを見渡すと、
結構あるんだよね疵痕が。
利き腕の右の拳に、いっこ、にこ、さんこ…、
随分と旧いのがある。
左手の人差し指と親指の間、
マッサージしてもらうと、とても気持ちのいーところにも
ポッツリと穴が塞がったような
盛りあがった疵痕がある。
この際だから、鏡に己の面相を映してみた。
顎の先端に数センチの疵痕、当然そこから髭は生えてこない。
あと、自分でもちょっと意外だったというか
自然に消えちゃったんだと思うんだけれど
目尻にあったヤツがないんだよね。
まあ、どの疵にも、どーしてそれが、
からだに刻まれちゃったかワケがある。
それをここで披瀝すると差し障りがあるから書かないし
すごい武勇伝なんぞあるわけもなく、
ダサイ話のオンパレードなんだけれど
そんな、まだ残ってる疵も消えちゃった疵も
酒を飲むとね、
そこだけ赤く浮き上がるんだよね。
そーすると、
ガキの頃の変なアルバムなんか見せられるより
鮮明に自分のバカがあぶり出されているようで
けっこう冷や汗が出てくる。
「傷と書かずに、疵と書きたくなる」
このあたりが自分の弱点なんだろうなぁと自省しつつ
まあ、それはそれ。