リレーコラムについて

五発目「鳩」

佐倉康彦

会社をサボった。
近所のコンビニでビールの6缶パックと
スポーツ新聞を何紙か買い求め、歩いて数分の公園に行った。
ベンチに寝ころんでビールを飲みながら紙面に目を通す。
ブランコやら滑り台のある方向から、
子どもたちの喚声が聞こえてくる。
そんな幼い声に混じって、時折、聞こえる
子どもたちのお母さんと思しき主婦たちの会話。
内容までは聞き取れない。ちょっと声のトーンが低い。
4本目のプルトップを開け、
再びベンチに寝転がろうとしたとき、
独特のイントネーションを持った固い声が
自分の右斜め後ろから耳朶に響いた。
振り返るとそこには、表情を強ばらせた若いお巡りさん。
職質ってやつだ。
ガキの頃からの悲しいサガで、無意識のうちに
心の中で警戒態勢レベル「デフコン1」の警告ランプが点灯する。
そーゆーにおいを発する人間に官憲カンケーの方は
とても敏感で、若い彼も身を固くしてる。
いつのまにか、先ほどまで聞こえていた
子どもたちの喚声もお母さんたちの声も消えていた。
自分より若いお巡りさんに
ちゃーんと冷静に、そして丁寧に身の証を立てるための説明をした。
彼と話していてわかっちゃった。
先ほどのお母さんたちが通報したのね。
黒ずくめ、ボーズ頭、色眼鏡、不審人物一名、
平日の昼下がり、公園で、ビール、ガブ飲み。
子供たちが、キケン!キケン!キケンよー!ってなもんだ。
そらそーだわな。
お巡りさんが何度もこちらを振り返り頭を下げ遠ざかってゆく。
気がつくと、この世でいちばんムカつく鳥が、
自分の座るベンチの回りに群がってる。
その無表情で無責任で全面的にアナタ任せな生き方が、
まさに東京的な、鳩ども。
ポッポー、ポッポー。嘲られてる気がして、ゾッとした。
自分がペロッとした平板なものになったようで鳥肌まで立った。
もし鳥になるとしたら東京で蛇蝎のごとく嫌われてる
鴉のほうが絶対にいい。そう思った。
その翌月、15年以上暮らしたトーキョーから引っ越した。

「カラス、なぜ鳴く(泣く)の?嫌われたっていーじゃなーい」
と歌いつつ、来週は、近々、私の新加入によって「風とロックと桜」と
名称が変わる予定の会社代表、箭内道彦さんです。

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