長い話
9年前のことだったと思います。
当時ぼくは入社3年目。谷山さんの下についてコピーを学ぶ日々でした。
「学ぶ」は「まねぶ」から来てると自分に言い聞かせ、最初はよく谷山さんの真似をしてたものです。
大きなノートにまずコピーをたくさん書いてセレクトしながら原稿用紙に清書していくやりかたから、
缶の飲み物を飲むとき手首を体に巻きつけるように半回転して持つやりかたまで。
前者はともかく、後者を真似しても、コピーはいっこうにうまくなりません(あたりまえだ!)。
TCC新人賞はもらったけど、自分なりのコピー観がどうもはっきり定まらない。
そんな時期のことでした。
ふと入ったコンビニで、いつものようになんとなく雑誌コーナーに目をやった時、
ぼくの目にあるものが飛び込んできたのです!
それは、1冊の女性週刊誌でした。たしか「女性自身」か「週刊女性」だったかと思います。
こんな見出しがぼくの目につきささってきました。
「元恋人が証言。羽賀研二22cmの驚異!」
ぼくは衝撃をうけました。
羽賀研二氏のスケールの大きさに、ではないですよ(もちろんそれもありますが……)。
本当にビックリさせられたのは、見出しの横ににそえられていたつぎのことばです。
「ちなみに本誌の横幅は21センチ」
コピーだ!これがコピーの力だ!そう思いました。
この1行があることで、この雑誌を手にした読者は羽賀研二氏の大きさをじつにリアルに実感できる!
この1行を読む前と読んだ後では、見える景色が違う!新しい認識の扉が開く!
こういうコピーを書きたいと思いました。
ただそこにあるだけじゃない、ほんとうに機能するコトバを。
読む前と読んだ後では、ものの見え方に変化を起こすくらいのコトバを。
しかも、読んだあとで、ちょっとニヤリと笑えるようなコトバを。
会社に帰って、さっそくこの話を谷山さんにしてみました。
谷山さんは当時愛飲していた「サッポロ魅惑の紅茶」をいつものように手首を内側に巻きみながら
一口すすると「それはおもしろい!」とマジ顔で言いました。
……なんてことを思い出しちゃうのも、自分がいま転機にあるからかもしれないなぁ。
と余韻を残しつつ、今日はオシマイです。
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