夏時
人混みが嫌いなので、
満員電車もバーゲンも、行列のできるラーメン屋も敬遠しますが、
花火は混み合った会場で見るのが好きです。
エアコンの効いた部屋から眺める小さな毬みたいな花火も、
建物の隙間にレースの切れ端のように偶然見える花火も、
それなりに味わい深いですが、
迫りくる巨大な花火を人いきれの中で見上げるのが、やっぱり最高です。
花火大会の会場には、普段全く別の生活をしている大勢の人たちが集まります。
光、音、振動、漂う火薬の匂い、昼間の暑さの残るぬるい空気…
みんなが五感を共有し、揃って興奮しながら夜空を仰ぐ。
そしてそれぞれ別々のことを想う。
恋人同士や友達グループや家族連れ、
これから毎年、一緒に花火を見ることになる人たちもいるかもしれないし、
明日失恋する人もいるかもしれない。
たくさんの人の期待や歓声や感動が渾然一体となって、
会場のテンションは高まり、
花火が燃え尽きてもなお、長く余韻が残る。
駅までの道を歩く人たちの顔がまだ少し昂揚している。
花火には言葉もストーリーもないのに、
それぞれの夏の物語ができあがっている。
同じ瞬間に、同じように夜空を見上げる人々の心境に、
想いを馳せるのが好きです。
その中には、去年の私もいたりします。
去年と同じ場所で夜空を見上げながら、
毎年変わってゆく自分を感じます。
そんな感覚が、花火を一層印象的にするのかもしれません。
また今年も夜空に花の開く季節がやってきます。