遐邇
6歳の時、家出をしました。
テレビや絵本と比べて私の毎日には刺激がない。
ラジカルな子供だった私は、生活に波紋を起こそうとしたのです。
とにかく遠くに行けば、もっと面白いことがあると信じて。
でもいざ歩き始めると、水泳教室の先の通りが渡れません。
その先へ、一人で行ったことがなかったのです。
水泳教室と、小学校と、大通り沿いのスーパーマーケットに囲まれたエリアが、
当時の私の行動範囲でした。
ひとまず近所の公園まで引き返して、家から持ち出した絵本を読んだり、
スケッチブックにお絵かきをしたりして、時間をつぶしました。
でもなかなか、もう一度歩き出すことができません。
日が翳り始め、心細さもつのります。
結局挫折して家に帰ると、
「さがさないでください」という書き置きさえ、
発見されずにテーブルの脇に置かれていました。
「ごはんよ、手洗ってきなさい」いつも通りの母。脱力する私。
でも不思議と満足感がありました。
遠くまで歩けなくても、冒険ができることを知った日でした。
あれから20年以上経って、
ひとりで大阪に赴任したり、
ひとりで地球の裏側にも行けるようになりましたが、
あの複雑な気分はいまだにはっきりと覚えています。
本当はあの日、私は出発したのかもしれません。
心をどこかへ連れていくコピーを目指して、これからも頑張ります。
一週間、どうもありがとうございました。
来週は東急エージェンシーの原さんです。新人賞の同期で、仲のよい友達です。
快くバトンを受け取ってくれて、ありがとう!よろしくおねがいします。
【遐邇】 遠い所と近い所。遠近。(広辞苑より)