ペンギンの涙と中学生の年賀状(1984年)
“アラビアの怪人”藤本泰明さんよりバトンを引き継ぎ
今週よりコラムを担当させていただくことになりました
同じく電通関西の碓井智(うすいさとし)と申します。
今週一週間よろしくお願いします。
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さて、今週のテーマは『年鑑』です。
TCCといえば、年鑑。年鑑といえば、TCCです。
大阪にいて、東京のクリエーティブ社交界(そんなもの
があるのかどうかは知りませんが)で、人脈をひろげ、
あわよくば、一般紙誌の取材なんかも受けちゃうように
なったりして・・・などという野望ももてない私には、
新人賞をとる前も、とってからも、TCCは、イコール年
鑑という図式なのです。
それ以上でもなく、それ以下でもなく、年鑑の中にある
事実のみが、私にとってのTCCであり、リアリティのあ
る世界なのです。
コピーライターになって、10年。
TCCというものを知って以来、常にそこに名を列ねるこ
とが、ひとつの目標であり、ずっとお世話になりつづけ
た、『TCCコピー年鑑』。
私というコピーライターが、いかにして、このようなコ
ピーライターになったのか。
ごくごく、私的に、年鑑について、書かせていただこう
と思います。
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仕事にやる気がでないとき。
コピーを全く書く気がおこらないとき。
皆さんは、どのように自分のその気とつきあっておられ
ますでしょうか。
私は、とにかく、あいてる会議室をみつけ、年鑑をひろ
げます。なにか目的があって広げるのではなく、ただた
だ、年鑑を眺めつつ、自分がその気になってくれるのを
待つのです。
そうゆうとき、ほぼ手にする年鑑が、私には決まってお
ります。
それは、『1984年コピー年鑑』。
そう、キンキラ金のゴールドに輝いている、あの表紙の
年鑑です。
なぜ、他の年鑑ではなく、84年の年鑑なのか!
実は、私は、1970年生まれ(実は、には何の意味もあ
りませんね)。84年の年鑑に掲載されている広告が世の
中にでてるのは、その前年の83年ですよね。ということ
は、当時、私は13才の中学1年生。もっとも多感で、テ
レビ番組よりも、CMなんかに、ちょっと興味をもちはじ
めたりなんかして、隣の席で大映ドラマ(不良少女とよ
ばれて、とか、少女に何がおこったか、とかですね、あ
〜これも懐かしいけど)の話をしているグループを横目
に「ふふん、僕なんかは、CMの方が全然面白いけどもね
ぇ」などど、訳のわからない優越感をいだきつつ、秘か
に広告への愛を育みつつあった時代でした。
また、世はまさに、これからバブルへ向け、狂騒的に、
楽しければ、それでいいじゃないかと、物質的な豊かさ
に対して、なんの疑いももたずに、ひたすら、目立つこ
とに寛容で、すべてにおいて、上向き&前向きな空気に
みちた時代を迎えようとしていました。
ひたすら明るく生きることだけが時代にあった価値とさ
れ、ネクラという言葉の流行により、明るくない奴は人
間じゃない!とでもいうような、むしろ今より非常に一
部の人間には生きにくい雰囲気も一面にはあった時代で
した。オタクとか、ひきこもり、という人々が、棲息を
はじめたのも、実はこの頃からではないかと、一部の専
問家のあいだでは、言われている、かどうかは知りませ
んが。
と、そんな時代に、中学1年生であった、うすい少年の
ココロをとらえたCMは、なんであろうか、それは、タ
イトルで勘づかれた方もいるであろうが、『サントリー
カンビール』だったのであります。
そう、あのペンギンのでてくる、松田聖子のスイートメ
モリーズがせつなく流れる、ひとり酒場で涙し、「泣か
せる味じゃん」と泣かせるセリフで締める、あのCMです。
これは、この時代に、このくらいの年頃で、過ごされた
方ならば、かなりの確率で、思い出にのこっているCM
じゃないかと思うのですが、うすい少年も、やはりこの
CMに、コロッとやられちゃった訳です。個人的には、
ピアノをひいてたメガネをかけてたペンギンの熱演が
好きだったのですが、人によっては、コーラス部隊が
よかった、とか、いいやオレは涙を流してるペンギン
の背後で、雑談をしている彼の仕草が可愛くってさ、
などというマニアックな人もいたりして・・・。
とにかく、理屈ぬきで、CMのもつ世界の美しさ、に
感動すらおぼえたものでした。
ただ、もちろん、当時は、コピーライターなる存在も
知らず、そもそも、CMだけを専門につくっている人々
がいるなんてことも理解していなかったように思いま
す。やっぱり、テレビ局の人が、つくってるんだろう
なくらいのレベルだったような気がします。
だから、特に、このCMが、私がコピーライターになっ
たきっかけ、という訳ではないのです。
でも、何か、ある衝動が、私のココロの中に生まれた
のは確かで、それを物語るエピソードがひとつありま
す(たいそうな話ではないですが)。
それは、その年の、年賀状の話です。
その年が何どしであったかは忘れましたが、なにを思
ったか、うすい少年は、イヌでもサルでもトリでもな
く、僕はペンギンが描きたいんだア〜!といって、友
人たちに、ペンギンイラスト入りの年賀状を送ったの
でした。そう、サントリーカンビールのペンギンをで
す。プリントごっことかも家にはなかったので、全部
手書きです。って、そんなに友達が少なかったのか!
と言われるとつらいのですが、たしか、最初の10人
くらいのものです。うすい少年の名誉のために言って
おきますが。
なんの脈絡もないペンギンのイラスト入りの年賀状で
したが、中学1年生の同級生からは結構喜ばれて、特
にうれしかったのが、ある友人(男)から、妹がすご
い感心しててさ、この人、ひとつひとつこんなに丁寧
に年賀状かいてるんだあ、すごいね、といってたよ、
といわれたこと。今でもおぼえているのですから、ま
あ相当うれしかったんでしょうね。別に、その妹に好
意をよせていたとか、そんなのは、全然ないのですが。
結局、なんか、好きなものを丁寧にかいて、それを他
人に見てもらって、喜ばれる、喜ばれると、また嬉し
い、という、今の仕事の原体験のようなものが、そこ
にはあったような気がします。
だから、私は、やる気がでないとき、1984年の年鑑
を手にするのだと思います。
皆さんにも、そんな、一冊ありませんか。
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