リレーコラムについて

ほんま、一瞬の夏

納健太郎

碓井さんから“拳でコピーを叩き出す男”と紹介されましたが、
いまの会社に入るちょっと前、
ボクシングに打ち込む毎日を送っていました。
TVのガチンコみたいな感じです。
スポーツするのはそんなに好きではないんですがボクシングだけは別で、
子供の頃は父と野球のグローブでミット打ちの真似事をするのが、
一番好きな遊びでした。
中高時代はボクシングにもっとも近いと思われる(?)剣道部へ。
大学生になって念願のジム通いを始めたものの、
当時はボクシングの現場にいるというだけでもうウットリしてしまい、
試合とかプロとか考えないまま練習を続け、
なんとなく辞めてしまっていました。
で、しばらくボクシングに思いを寄せながらも
まったく無縁の毎日を送っていた28歳のある日。
“あぁいまが真剣にボクシングをする最後のチャンスかも知れん”
と思うと、じっとしていられなくなり、もう一度ジムに通うことにしました。
今度はプロテストや試合に出ることを目指してです。

ボクシングって「相手に脳震盪を起こさせた方が勝ち」と、
考えようによってはとんでもない競技なんですが、
僕が魅力を感じるのはそんな暴力的な部分より、全体に流れる独特のリズムです。
僕のボクシングもリズムが命、
フットワークを駆使し、ジャブで相手を寄せつけない(はず)。
相手が接近しようとすると、右のカウンターをお見舞いする(はず)。
“蝶のように舞い、蜂のように刺す”アリの戦法がイメージです。
ところがこっちの蝶は、打たれ弱いときたもんだ。
やがて国体の予選(アマチュア)に出してもらったりもしましたが、
いい結果は出せませんでした。
そして悲願の、魂を込めまくって受けたプロテストも落ちてしまいました。
落ちてすぐ年齢制限の30歳になり、僕のガチンコ生活は終わりました。
カーン!
             ★
で、いまの僕のボクシングとの関わりは、まず過去の名勝負ビデオ鑑賞です。
好みは断然、外国人同士より日本人がらみのものです。
この僕の姿勢は、Hビデオに対するそれとまったく同じで、
共通して言えるのは
「洋モノは確かに凄いけど、なんかリアリティがない」という点です。
おすすめは、柴田国明もの、海老原博幸もの。いいリズム出してます。

ビデオの場合はまだ冷静に見れるんですが、生中継や試合会場に行ったりすると、
もうリング上と自分がシンクロしてしまいあっちの世界に行ってしまいます。
辰吉の試合のたびに泣いたり飛び上がったりする僕を見て、
結婚前の妻はかなりひいたそうです。
あと友人の同僚に、これまた辰吉の大々ファンがいて、
その人は辰吉が負けるとしばらく会社に来なくなるらしいです。
             ★
結局僕は選手としてなーんの実績も残せず
「あ〜、あの練習のとき、あの試合のとき、あのテストのとき、
もっとこうしてたらよかったなあ」と悔いばかり残してます。
でも“何もしなかった悔い”より“やってみた結果としての悔い”は
まあよいかな、と。
“プロテスト受けてみたかった”とか死ぬまで言い続けて
子どもや孫たちにウザがられるよりは、
やっぱりやってよかったかなと思っています。

NO
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