リレーコラムについて

あの頃(4)

蛭田瑞穂

中学、高校と陸上部で長距離を走っていて、
持久力と集中力はあると思っていたが、
30歳の手前くらいから体重が増え、
それとともに持久力と集中力が減っていった。

走ることにした。

その頃、白金高輪にある、
東京オリンピックの頃に建てられたマンションの、
16平米くらいのものすごく狭い部屋に住んでいた。

白金高輪から白金台に上って、目黒に出て、
そこから恵比寿ガーデンプレイスをぐるっとまわって、
恵比寿3丁目の交差点に向かう。
広尾に直進し、仙台坂上を抜けて、麻布十番へ降りて、
二の橋、三の橋、古川橋を順に通って白金高輪に戻る。
という順路を走っていた。
深夜、仕事から帰った後。

ある夜、白金台の庭園美術館前の舗道を走っていたら、
前の暗がりにネコが飛び跳ねているのが見えた。
近づいてみるとそれはネコではなくてイタチだった。
しかも、飛び跳ねているのではなく、
のたうちまわっているのだった。
車道を横断しようとしてクルマに轢かれ、
それでも必死に舗道まで辿り着いた。
道路に点々とつく血の跡にそれが見て取れた。
呆然と見ている僕の目の前でイタチは息を引き取った。

僕はしばらくその場にいた。
そのまま走っていくことはできなかった。
動物が不幸な目に遭うのは嫌いだ。

近くのパン屋の店裏に行って、段ボールを取ってきて、
イタチの亡骸をその段ボールに入れて自然教育園の門前に置いた。

深夜1時半頃の、目黒通り。

それ以来、深夜に街を走ることはやめて、
近所のジムに通いはじめた。

体重は減った。

同じ作業を休みなく一時間続けることで
持久力と集中力が養われると信じて、
僕はランニングマシーンの上を走っている。

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