どんな男の心にも、本宮ひろしは住んでいる。
喧嘩、喧嘩、喧嘩。
ことあるごとに、殴り合いが始まる。そんな喧嘩ばかりの会社だった。
26歳から30歳まで、その会社にはいた。喧嘩の回数は、覚えていない。
だって、酔えばいつも、だったから。
先輩たちは、わざわざ喧嘩したくて、飲みに行ってるのではないか、
と思えるほどだった。
新年会、忘年会、新人歓迎会、送別会、コピーライターの会、打ち上げ、飲み会。
会社のある銀座界隈では、出禁になった店が数件あった。
なんせ、みんな、背が高く、ガタイのいいヤツばっかだった。
180cm以上がほとんど、178cmの僕でさえ、チビ扱いだ。
ヤンキーあがりと、ラグビーあがりの先輩がその中心にいた。
この人たちの心のなかには、
きっと本宮ひろし(今なら高橋ヒロシか)が住んでいるんだろうなあ、
と思うことも、しばしばあった。僕も、そのひとりではあったが。
★
ある日のこと。その時ばかりは事情が違っていた。
店内での集団乱闘。普通の会社員だと思っていた相手は、
ちょっとヤバイ系だった。
いつもの喧嘩だと思っていたが、
みんな、普段よりエキサイトしていたのかもしれない。
翌日、どこで調べたのか、
訴えるという電話が会社の先輩プロデューサーに来た。
そこからの動きが早かった、すべての関係者は診断書を集め、
プロデューサーは弁護士に相談していた。
結果、向こうが引くことで決着がついたが、
その話は、会社の役員たちにまで届いていた。
中心のふたりが役員たちに呼ばれ、僕たちはその動向を見守った。
「まいった。めちゃめちゃ説教された」
出てくるなり、へこんでいるふたりがいた。
そりゃそうだろう、会社に迷惑がかかるところなんだし。
「違うよ。喧嘩のやり方で説教された。
中途半端な喧嘩してるからそうなるんだ。
訴えられないくらいボコボコにするんだよ。だってさ」
意外なところにも、本宮ひろしを飼っている男たちが、いた。
★
こうして喧嘩ブームは、いつのまにか、なりをひそめ、
別のブームがやってくることとなる。
★
裸、裸、裸。
ことあるごとにカラオケBOXで10人以上の集団が脱ぐようになったのは、
その半年後だった。そして、その中心に、僕は、いた。、
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