リレーコラムについて

パリの親友

秋元敦

昨年、仕事でパリにいくことがあった。
そこには親友が暮らしている。
僕がコピーライターになる1年ほど前、
20才で単身パリに渡り、修業してレストランを開き、
その後貿易会社を起こしたりして、結婚して子供も生まれ、
クルマや大きめの家も買い、成功しているようだった。
突然おどかしてやろうと、最後に会ったときに教えられた番号に
ホテルから電話してみた。
現在使われておりません、というようなフランス語の
メッセージが返ってきた。

親友は、殺されていた。それも3年も前に。
僕は全然知らなかった。
昨年の暮れ、日曜の夜の仕事中に、携帯が鳴った。
「やっと秋元くんと連絡がとれた」
子供の頃以来聞いていない声だったけど、彼のお母さんだと
すぐにわかった。泣きながら話してくれた。

親友は、まだパリにいる。
射殺した犯人が捕まらず、日本に帰れないままでいた。
外務省から、未解決事件として処理されそうなので、
近く日本に帰れそうだと連絡があったという。
その時はぜひ一緒に迎えに来てやってほしい、
というお母さんに、必ず行きますと応えて電話を切り、
その場にしゃがみこんでしまった。
仕事を終えて深夜家に帰り、布団にあぐらをかいて座り、
それからしゃくりあげて泣いた。

「おまえがコピーライターで少しは偉くなったら、
パリに来い。チケットだけ買えば、あとは俺がみんな
面倒みるからさ。パリを全部案内してやる。そのかわり
2週間以上は必ず休みをとってこい」
最後に居酒屋で会ったとき、たしかそんな話をして別れた。

ばかやろー、ふざけんな。親友はおまえとボーちゃんだけだったのに。
はやく日本に帰ってこい、俺が面倒みてやるよ。

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